Main

□精一杯の色香
1ページ/1ページ





ねえ俺がこんなに頑張ってるのにさ。
その扱い方は、恋人としてどうなの。



「しののめー」
「飯ならまだだぞ」
「ちっがう!ていうか、朽葉あしらうみたいにすんなー!」
「お前とあいつは似てる」
「えっ何それ俺も朽葉みたいに可愛いってことでいいの」
「あーその頭のネジの緩み具合とかがな」
「ひどくない!?」
「で?なんだよ。用がないなら和算でもやってろお隣にいただろ和算得意なガキが」
「なんで和算やること前提で話すのさ!」
「本読むので忙しいんだよ料理の本だからな―邪魔すんなよー」
「うぐぐぐぐぐぐ」

篠ノ女のバーカ!!!
ついでに読書バカ!!
本が好きなら本と結婚しろー。

俺は悪態を(心中で)叫びながら、それでも篠ノ女が料理の本とか読んでご飯作ってくれないと俺とか朽葉が餓死してしまうので。
結局俺は和算セット一式(篠ノ女が作ってくれた)を持ってお隣の長屋へこんにちはーと声をかけたのだった。
顔を見せたのは、馴染みの可愛い子供。
鴇さんいらっしゃいと快くお出迎えしてくれる。うんうん、江戸の子供は純粋でいいなあ。
今日はどんな問題を解きましょうか?
俺も結構数学には自信があったほうだけど、頭の柔らかさが違うみたいで、すっかりこの子は俺の和算の先生でもある。
えっとねー。
篠ノ女の字で書かれたちょっと汚い筆文字。
その中からこれかな?と、とある一問を指差すと、その子は分かりましたと言ってじゃあまずは、と指南を始めてくれた。


そうこうしているうちに、初めの一問から結構な時間が経ったみたいで外は少し陰ってきていた。
もうすぐ夕飯ですねと先生(と、呼ばせてもらおう)が行燈に火を入れるのを見て、篠ノ女もそろそろご飯作りにお寺に来てるかなあ。と考えたらぐーっと腹が鳴った。
俺も帰るねー。先生に手を振ってから、俺は一度篠ノ女の部屋をのぞいてみる。

・・・あれ、まだいる。

「篠ノ女―、ご飯―」
「お前は開口一番それなのか?」

やっぱり朽葉と同類じゃねえかだなんて失礼な!(俺じゃなくて朽葉に)
和算セット置きに来ただけだけどね!
篠ノ女のバカみたいにたくさんある本の雪崩に巻き込まれないように、ちょっと避けたスペースに俺は風呂敷包みを置く。
そのまま寺へ帰ろうとした・・・けど、篠ノ女はまだ動かない。

「篠ノ女行かないの?」
「いや、行くけど」

何なんだ一体。と思っていると、鴇、と手招きされる。
ちょっと不審に思ったけど、呼ばれるがまま素直に座敷に上がると急に腕をひかれた。

「っわ、?」

そのまま包み込まれたのは篠ノ女の腕の中。
あれー。どうしたんだ篠ノ女。珍しく、優しい。

「珍しくって何だよ」

口に出ていたらしい。でも本当に、珍しいのだからしかたないでしょ。

「何、なんかあったの」
「別に」
「えーだって、さっきはあんなに冷たかったのに」
「いつも通りだろ」

いつもあんなんだったら俺のガラスの心はとっくの昔にぶろーくんなんですけど。
嫌味じみた俺のつぶやきを篠ノ女は、はっと鼻で一蹴しやがった。
ああくっそムカつく殴りたいけど何かかっこいいから無理です!!(結局おれは篠ノ女に甘いのだ)

「ねえ、ホントに何かあったの篠ノ女」
「あー・・・ま、あるっちゃあるけどな」
「なに、」

ぱっと一瞬離された身体の隙間をすぐ埋めるように、篠ノ女が俺の頬をつかんだ。
え、あれ、もしかし、て。

俺の淡い期待通り、篠ノ女の唇が俺のそれに触れた。
唇を食まれて、舌先で歯列をなぞられて、ああ、ちょっと、やばい。
まだ夜も更けきってないのに、そう云う気持ちに、なる。

キスが終わった後の篠ノ女の顔は、してやったり顔。
こいつ俺がこうなることわかってたな・・・!!
恨めしげな眼でにらむけど、じわりと、眦に浮かんできた涙を優しい手ですくい取られて、ぴくりと肩が震える。

「・・・どうした、鴇?」

なに、これ。
もう、なんだよ。
ばかしののめ。
責任とれ!


「し、ののめ」
「ん?」


「・・・・・・・・し、・・・た、い」


もう涙があふれそうなくらい、いっぱいいっぱいの俺の願いに、篠ノ女がよくできましたともう一度唇を重ねてきた。




(こんなやつ好きなんて世も末)
せいいっぱいの色香であの人をたぶらかすのです
(が、たぶらかされてるのは絶対俺だ)




おしまい。

ごめんね朽葉ご飯はもうちょっと待っててください(1ラウンドで終わるか心配!)。



お題拝借先>>確かに恋だった

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ