ねえこの世界のくだらない神様。
もし俺が死んでしまうんなら、最期はあの漆黒に包まれて死にたい。
それ、天網に組みこんでおいてよ。
昼間だというのに静かな空間。
暇で仕方なくて、ごろりと寝返りを打つと障子の向こうからどてどてと遠慮を知らない足音が聞こえた。
あ、もしかして。
「鴇、」
案の定すらりと開けられた障子の向こうに立っていたのは、眩しい陽の中でもはっきり分かる、大好きな人だった。
「しののめだー」
「だー、じゃねえだろ」
眩しそうに目を細めて、上体を起こした俺を気遣ってか、無駄のない動きで部屋に入り込んだ篠ノ女はぴしゃりと障子をまた閉めた。
戻ってくる薄暗さが気持ちいい。
「つーか、お前」
すぐそばまで来た篠ノ女は、座るとともに呆れたため息。
視線は俺の枕元にあるお盆の上で。
「?」
「薬飲めよ」
「苦いの、やだ」
「露草に怒られんぞ」
「それもっと、やだ」
「じゃあ飲めよ」
「しののめ口移しで飲ませてー」
「バカ言ってんな」
ひどい切り返し方。相変わらずだ。
「っていうのはうそでー」
「うそかよ」
「ちゅーしよう、しののめ」
「うそじゃねえじゃん」
ちゅーと口移しで薬を飲むのは違う!
そこにある気持ちよさが全然違う!
なんて云う俺の力説をいつものようにはいはいはい、と篠ノ女は受け流して俺の大好きな手で黒髪をかいた。
ああ、ほんとうに、
しののめは、きれいだなあ。
(こんなきれいなものに愛されたまま死ねるなんて)
(俺ってなんて幸せ者なんだろう)
「しののめー」
「・・・後で、ちゃんと飲めよ」
「飲むのむ」
うそだけどね。
だってキスしてる間に俺、
死んじゃうもん。
鴇、と優しく囁かれて赤面する頬は二重の意味で期待している。
(あの気持ちいいキスと)
(そのキスで死ねる今からに)
俺の鳶色をあの手がくすぐって、ひょいと身をすくめた隙に抱きこまれて優しいキス。
「・・・ん、」
離さないでね。
そのままでいて。
(むしろ離さない)
閉じた瞼は篠ノ女の髪の毛と同じ漆黒。
ああ、俺は今篠ノ女に支配されて死んでいる!
酸素の足りない脳みそはぐらぐらして
肺の中がきつくなっていく。
(だいじょうぶこわくない)
(早く止まって俺の心臓!!)
俺が彼を残して、(この世を)卒業する日
(Good-bye, the dear world)
(...And You!!)
おしまい。
大学の講義中に考えた、二重の意味で病んでる鴇時。あまつき設定。
お題拝借先>>確かに恋だった
(原題:彼女が俺を残して、卒業する日)