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□キスは焦げたパイの味
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朝起きてみたらキッチンから異臭がしていた。
なんか変なものでも置いといたかなと思って覗きこんだら、
「・・・なにしてんのケン」
可愛い恋人がオーブンの前で涙ぐんでいた。


「だって、だって」
「うんうん」
「簡単に作れるって言ってたからー」
「うんうんよしよし、泣かないの」

どうやらケンはテレビの簡単クッキングでも見て、初心者でも簡単に作れるという常套句につられたんだろう。
お世辞にも料理はうまいほうではないケンが「やってみよう」と意気込むくらいだから、さぞかし美味しそうなものだったのだろう。

「怪我してない?大丈夫?」

金色をくしゃりとなでて、まだ潤む亜麻色の目尻に軽くキスする。
くすぐったいと身をよじりながら大丈夫だよ、とケンが言いながらちょっと指先を隠したのは見逃さない。
さっと引きよせて、そこにもキス。(洸兄!と呼ばれたけど知らんぷり)
赤くなってる、のは俺が触れてるからなのか、それとも怪我なのかもうケンには判別ついてないだろう。

「・・・ダメだよケン。料理なんかより、自分大事にしなきゃ」
「う、ん・・・ごめんね。洸兄」

眉を八の字に下げて、ごめんなさい、とケンはもう一度言った。
ほんっとケンは素直で可愛い。
緩む口元を隠さずにケン、と呼ぶと。
なあに洸兄、と、こてんと首を傾げる。・・・ああその仕草もお兄さん朝から理性飛びそうなのでやめてください(なんて言っても無意識だからなあこの子は)

「あのさ、何作ってたの?」

絵にしたら黒い煙を上げてそうなオーブンを見て、今度は俺が首をかしげた。
てっきり主食物を作ってると思ったんだけど、どうやらケンが見ていたのは違うみたいだ。

「あー・・・んとね、アップルパイ。・・・でも焦げちゃった」

材料無駄にしてごめんね、というケンの頭をいいよ、となでてやる。材料なんかまた買ってこればいいだけの話だし。
ようやく煙のおさまってきたオーブンの中をのぞきこむと、なるほど。
その中央に鎮座しているのは、ぶすぶすと焦げたアップルパイ(・・・みたいなもの)。
どこで間違えたのかな。
一緒にオーブンの中を覗き込んで呟くケンをよそに、俺の手がそれを取り出す。

「洸兄?」
「一口もらってい?」
「え」

ケンが制止をかける前に、何とか食べられそうなあまり焦げていない部分を指でつまんで咀嚼。
店で売ってるようなあの甘さは感じられなかったけれど、俺にとってそれはどんなものよりおいしく感じた。

(新婚家庭が円満な理由がわかった気がする・・・)

「こ、洸兄!水飲まなきゃ」
「え、いいよ」
「だってそれ、焦げてるし」

グラスを取り出そうとするケンの腕を掴んで引き寄せる。
目を見開くケンに抵抗の時間は与えないよう、素早くあの柔らかい唇にキスを落とした。

ケン、ちょっと林檎つまみ食いしたのかな。
甘酸っぱい味が鼻腔をくすぐる。
それは俺の口内に残る苦さと混ぜあって、ようやくアップルパイの味がした。


「・・・・・・焦げてた」
「そ?俺はちゃんとアップルパイの味したよー」
「ええーなんで?」
「もっかいしたらわかるんじゃない?」
「・・・・じゃあ、もっかい、して」


顔を真っ赤に染めながらもう一度とねだるケンに
望むならいくらでもと俺はもう一度唇を重ねた。






キスは焦げたパイの味がした
(けど、)(君が甘くさせてくれる)







おしまい。

賢吾が料理下手で、洸兄が料理上手とかなんていい関係なんだろう!!と4,5巻のカバー裏見ながらにやにやしてました。


お題拝借先>>確かに恋だった

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