頂き物

□-彼と彼女と彼奴と夕陽-
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空座高校1年3組教室は差し込む夕陽に照らされて一面のオレンジ色。



[彼と彼女と彼奴と夕陽]



その彩に負けぬ漆黒の髪。
ほんのりと夕陽を弾く白磁の肌。
纏う色だけを見れば、実に良く似た二人が佇む放課後の教室。

片割れの少年の手にはフェルト生地と針と糸。
もう片方の視線はひたと少年の手元に注がれて。

やがて、その手元の動きが止まった。

「はい。出来たよ朽木さん」
「おお!流石だな石田」

彼から手渡されたのは彼女の愛するピンクの兎を模した小さなぬいぐるみ。

純粋な笑顔を見せる彼女の姿に雨竜は僅かにその口元を綻ばせる。

「気に入ってくれて良かった」
「石田は凄いな。何でも作れて」

外見年齢に相応しい笑顔を向けられ、雨竜は僅かに戸惑いを見せつつ「そんな事無いよ」などと謙遜する。

「この間一護が身に着けていたマフラー。アレもお主の作品で有ろう?」
「う、うん…そう、だよ///」

照れを滲ませた表情で応える姿に純度100%に感じた儘にルキアはポツリと呟いた。

「やはり…一護には勿体無いな」
「Σッ!!く、朽木さんっ!?///」

夕陽のせいでは無い頬の赤味も露わな顔で狼狽える雨竜を後目にルキアはいそいそと通学鞄に作って貰ったチャッピーを付けている。

「ふむ!丁度良いサイズだな!」

ファスナー部分に付けられたそれは、邪魔にならない程度に愛らしさを主張していた。
実に満足げに呟くルキアのマイペースっ振りに雨竜は自然、微笑みを浮かべて。
それが、余りにも差し込む夕陽と相俟って。
なんだかとても、暖かい。
そんな雨竜に目を奪われていれば、きょとりと首を傾げられて。

「朽木さん?」

掛けられた声に無意識に言葉が洩れた。

「お主、朽木家に嫁に来ぬか?」
「……は?」

余りにも突拍子も無いそれに、雨竜は益々きょとりとして。
ぽかんと此方を見遣る姿にルキアはと云えば。

「ふむ。それが良い。何、生活に不自由はさせぬぞ?」

何とも男らしさ溢れる台詞に、一瞬納得し掛けた雨竜であるが頭を振って正気に返った。

「イヤイヤイヤイヤ。ちょっと待って朽木さんっ」
「何だ?不満か?」
「そうじゃなくて、何で僕“嫁”っ!?」

当たり前のようにさらりと告げられたポジションは、自分の性別では有り得ない筈のモノで。

ーーって云うか何でさらっと言い切るかな?

「?何か可笑しいか?」

本気解っていなさそうなルキアに、雨竜は肩を落とす他無い。

「朽木さん…僕、男だよ」
「知っておるがな…お主はやはり“嫁”と言うに相応しかろう?料理裁縫は言うに及ばず家事全般何でも来いではないか」

だから遠慮無く嫁いで来いと大真面目に告げられて雨竜は益々返答に窮した。

と、不意に感知した馴染み深い霊圧に視線を向けるは窓の向こう。

「どうやら片付いたようだね」
「ふむ。案外早かったな」

「ンだよ、そのリアクションは…折角ヒトが虚退治頑張って来たっつうのに」

それまで教室の片隅で置物の如く放置されていた一護がムクリとその身を起こした。

「ふふ…ご苦労様」
「……おぅ///」

機嫌が良いのかふわりと微笑み付きに労われ思わず一護の頬に朱が走る。

「チッ…もう少し手間取っておれば、その間に石田が朽木家の嫁に納まってくれたと云うに…空気読めこの『けーわい』が」

心底うざったそうに一護を見遣るルキアの眼差しは邪魔者を見るそれである。
そんな彼女の舌打ち混じりな台詞に即座に一護は声を荒げた。

「させるかぁぁぁあッ!!てか何しれっとヒトの恋人口説いてンだよテメェはッ!!」
「ちょ、莫迦っ!デカい声で何を」

幾ら放課後もかなり遅い時間とは言え、誰も通らぬと言い切れぬ現状で流石にこんな堂々言い切られては狼狽えざるを得ない。
案の定、咎める雨竜の頬は羞恥に赤く染まっていた。

「ッあ…悪ィ…ιでも、俺としてはそろそろ知られてもイイかと…」

と言うかいっそ学校中に言いふらしたい一護であるのだが。

「厭だよそんなのっ!そんな事にでもなったら恥ずかしさで登校拒否するよ僕ッ!!」
「全く、本当に貴様は『けーわい』だな…」

一護のささやかな願望は全力で以て拒否された。

「石田、こんな莫迦は放って置いてさっさと帰ろうではないか。もうこんな時間だ」
「そうだね朽木さん」

「え…?ι」

地味にショックを受け茫然とする一護を軽く流し、二人連れ立って教室を後にするルキアと雨竜。
ガラリと開かれたドアの音に、漸く思考が戻って来た一護は自分の通学鞄を掴むと一目散に二人の後を追い掛けた。

「ちょ、待て待て!置いてくなお前らッ!!」



「石田…やはりお主、一護などやめて朽木家に嫁に来いι」
「…うん、ちょっと真剣に考えようかな…僕ι」

「考えるなぁぁぁあッ!!」






2010.01.21

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