拍手をしてくださり、ありがとうございます!お礼小説を置いています!
「只今、尾行中」
著作:MIE
「――だからって僕達も中に入る事ないじゃないですかー」
と店先で伊丹憲一にぼやいているのは芹沢慶二だった。
芹沢の隣で話を聞いていた伊丹は、眉間に皺を寄せて
「バーカ! 俺達が入らなきゃわからねぇだろうが」
と言ったと同時に芹沢の頭を叩く。
そして本当は入りたくねぇけど仕方ないだろと話すと、迎え側にいた三浦信輔を見ていた。
頭を叩かれた芹沢は痛っと呟くと
「三浦さん、外で待ってましょうよー」
と助け舟を出すが三浦は残念そうに頭を左右に振ると、諦めるんだなと言って伊丹と店へと歩いて行ったのだった。
つまり三人はある人の尾行をしている最中で、見失わないようにゲームセンターに入ったのである。
店内は土曜日だったせいか若者が多く、その中には家族や恋人の姿もあった。
広い店内での尾行は見つかりにくいが、同時に見つけにくくもある。
「おい伊丹、目を離すなよ」
そう言われた伊丹は黙って頷き、さり気なく店内に目を配る。
尾行している人は男性で三十代半ば、まだ決まった訳ではないが強盗の疑いがある男だった。
「あっ、これ好きなんですよー! 」
そう嬉しそうに声を上げたのは芹沢だった。
あれだけ店内に入りたがっていなかったのに、今はCMで見たキャラクターのストラップのぬいぐるみを見つけて喜んでいる。
「もう、ぬいぐるみになっているのか」
と眼鏡を頭に上げて見ているのは、三浦である。
という事は三人の中で真面目に仕事をしているのは伊丹だけだった。
「仕方ねぇな 。先に出ますよ、三浦さん」
そう声をかけた伊丹は二人をチラリと見てから、足早に自動ドアの方へ歩いて行った。
すると芹沢は右手にストラップを、三浦はお菓子の箱を持ってドアへと歩いて行く。
「―― どうやら今日は動きそうもない…… って先輩、何ですかこれは? 」
車に戻った芹沢が運転席にいた伊丹にそう話すと、三浦も後部座席に置いてあったある物を見て目を見開いていた。
芹沢に聞かれた伊丹は
「な、何だ、時間があったから一回だけやってみただけだ」
と言ってハンドルを握ると車を走らせる。
それは照れているようにも罰が悪そうな顔にも見えて、芹沢は思わず吹いてしまった。
もちろん後部座席に座っている三浦も、笑いをこらえていたのだった。
それには訳があり、後部座席にはおよそ伊丹には似合わないと思われる、人気がある猫の大きなぬいぐるみが座っていたからである。
完
20101129
.