『笑顔の配達人』本編

□第一話『友達』
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校庭では散った桜の花びらが砂ぼこりと一緒に舞っている。

校舎には元気に遊ぶ子供たちの声が響きわたっている。





俺は河西春樹。


親父の転勤で小5の時転校して来た俺は、クラスに馴染めず一人浮いた存在だった。


元々、人見知りで口下手だったせいもあるだろう。


休み時間は毎日一人で絵を描き過ごしていた。

友達は一人も居なかった。

まぁ、転校前も友達と呼べる程の人はいなかったのだが…。




別に友達なんていらない。面倒なだけだ。そうやって自分に言い聞かせ俺は毎日を過ごしていた。





そんなある日だ。いつものように一人で絵を描く俺に富川が話しかけてきた。






「よぅ。俺、富川幸広っ!
河西君絵激ウマじゃん!俺の絵はピカソ級だから誰にも理解されなくてさ〜。」

いたずらっぽく笑う富川。




「あっ。えっと…あのっありがとう。」

話しかけられた事への驚きと緊張で俺は消え入りそうな声で喋った。





「いやいや。気にするな若者よ!」


富川はいつも明るく元気な少年だった。
俺とはまるで正反対だ。

しかしそんな明るい富川の言葉は、不思議な事に俺の心にスーと入り込み、気持ちを楽にしていった。







富川と関わり、初めて学校で“話したい”と思えた。





「とっ富川君だって若者じゃん。」







「おっ、ナイスツッコミ♪」





「えっ…そうかな?あっありがとうッ。」




――――――――



俺はこの時初めて学校で笑顔になった。



この日を境に、俺と富川はどんどん仲良くなって行った。


そして休み時間に絵を描く必要はなくなり、毎日を笑顔で過ごせるようになった。






初めての友達、富川幸広との出会いだ。






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