『笑顔の配達人』本編
□第六話『親父の気持ち』
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その晩の夜中、トイレに行きたくなり俺は目を覚した。
トイレを済まし部屋に戻ろうとすると、奥の部屋に明りがついているのに気が付いた。
その部屋は母さんの仏壇がある部屋だ。
部屋に近付くと何やら話し声が聞こえてきた。
「母さん、春樹がお笑い芸人になりたいって俺に言って来たんだ。」
親父が仏壇に向かって話しをしていた。
「驚いたけど嬉しかったなぁー。春樹の真剣な表情。あいつ、本気でやりたい事見つけたんだ。
お前が死んだ時、俺は哀しみと絶望の中で慣れない子育てを初めた。毎日が手探りだった。
でも母さん…春樹は良い子に育ってるよ。良かった。本当に良かった。」
その日親父は、母の仏壇の横に布団を敷き眠りに就いた。
とても幸せそうな顔をして眠っていた。
俺は暫くその場に立ち尽くした。
そしてふと気付くと俺の目からは暖かく優しい涙がゆっくりとこぼれ落ちていた。