『笑顔の配達人』本編
□第十七話『不安』
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卒業ライブの結果が出るまで俺はバイトとネタ作りに明け暮れた。
必死に何かをしていないと不安に押し潰されそうになるのだ。
俺のバイト先は漫画喫茶。
裏路地にある為かお客の人数は多くはない。
今日も相変わらず暇だった。
「あぁーあ、暇すぎて疲れるわ。」
バイトを終えて帰る支度をしていると、店長が小走りで近付いて来る。
「ちょっとちょっと、河西君!」
「あっ、店長、お疲れ様です。もう時間なんであがりますね。」
「いやいやいや、だからちょっと待ってって!」
「なんですか?」
「店の入口にさ、さっきから変な人がいるんだよ。」
店長は怪訝な表情を浮べ入口の方を指差した。
店長の指差す方を見ると、黒いGパンに黄色いパーカーを着た若い男が携帯を持ちうろうろしている。
「店長、俺外行って見て来ます。」
俺は入口まで歩いて行きドアを開けた。
「あのー。」
「おぉー、やっと出てきた!待ってたんだぞー。」
「えっ富川?!何やってんだよ、こんな所で。」
店長の見た“変な人”とは富川のことだった。
「いや、そろそろ終わる時間かなって思ってさー。」
「お前さ、店の前ウロウロするから店長に不審者だと思われてるぞ。」
「マジで?!」
「っていうか何か用なの?バイト先まで来て。」
「あっ…迷惑だった?ごめんね…はるき…。」
「うわっ、何だよ気持ち悪いな。彼女かっ!」
「ハハっ、楽しい♪」
いつもの調子でいたずらっぽく笑う富川。
「お前本当にいい加減にしろよー。」
俺は怒ると言うより、飽きれてしまった。
飽きれ顔で富川の方を見ると、先程とは正反対の切ない表情の富川がそこに居た。
「……。卒業ライブの結果が気になって、何か落ち着かないんだよね。今日はバイトも休みだし。家に一人で居ると不安で……。」
「富川……。」
「河西は今から暇?」
「うん、まぁバイトも終わったし。」
「よっしゃ、じゃあ一緒に晩飯食いに行こう!」
「おぉ。ちょっと店長に一言言って来る。」
「あっ、俺も行くよ!不審者のままじゃ嫌だしな。」
いつもの生き生きとした表情の富川に戻った。
俺の大好きな表情だ。
しかしその一方で、富川が時折見せる切ない表情を見ると何故だか安心する自分も居る。
「店長ー、こいつ俺の相方なんです。スミマセン、怖がらせちゃって。」
「なんだー、君が河西君の相方の富川君?よく河西君から話で聞いてるよ。」
「スミマセン。はい。俺が河西の相方の富川幸広です。」
「いや、謝らないでいいって。不審者じゃなくて良かったよー。」
「店長、うちの相方がお騒がせしました。じゃ、そういう事で、今日はこれであがります。お疲れ様でした。」
「はいはい、お疲れさーん。また明日宜しくね。」
俺と富川は店長に頭を下げその場を後にし、そのまま夕飯を食べに出かけた。