‥◆anniversaire◆‥

□病魔
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 先刻までは見えていたはずの太陽が薄暗い雲に遮られ始め、地上へは弱い光が僅かに届くだけになっている。
 湿っぽい独特のにおいに嗅覚を刺激され、驟雨を予感させた。
 ここ数日、そんな中途半端な日和が続いている所為で、朝、バッグに入れる荷物を混乱させられることが多々ある。
 バッグの中に入れた傘を確認しながら昇降口を出ると、よく響く耳慣れた音。
 部活が開始されてから30分は経っている。
 委員会で遅れることは事前に伝えてあるため特に急ぐこともないが、それでも歩調を早めて部室へ近づく。
 部室の前まで来て、ノブを回そうと手首を捻った時、不意に内側から不審な音が聞こえた。
 音、というよりは声だろうか。
 扉を開けて足を踏み入れた自分の目に届いたのは見知った背中。均整のとれた身体なのはシャツの上からでもよく分かる。
 そしてまた不審な声。
 その声と同時に肩と背中が揺れ、手に掴まれていたものが落ちた。
 扉の閉まる音に気づいたのか、振り返った顔にはいつにも増して深い刻みができている。
 足元に落ちたジャージを拾い上げ、軽く叩いてやりながら。
「大丈夫?珍しいね、風邪なんて」
「ああ。久しぶりにひいた」
 引き攣る顔が症状を物語る。
 それでも、受け取ったジャージを丁寧に畳むことは忘れない。
 
「昨日のにわか雨の所為かな、やっぱり」
「…だろうな」

 顔色を見る限りでは、まだ熱はないらしい。
 けれどこの状態で部活を行えば、終了するころには身体が言うことを聞かなくなるのが目に見えている。
 おそらくは、そうなる前に帰宅するよう説得されたのだろう。
 必死で説得する部員たちの姿が、容易に目に浮かぶ。
 自己管理は徹底しているであろう人物がこの有様。
 昨日、同じように雨に濡れたはずなのに咳ひとつしていない自分は、思っていたより丈夫なのかもしれない。
 止まらない咳に阻まれ、思うように着替えが進まないのを見て。

「つらそうだね」
「…うつるから、あまり近づくな」

 発せられた忠告は無視し、やんわりと両腕を首へ回す。
 距離、5センチ。

「いいよ。その菌、貰ってあげる」


  +Fin+


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 手塚国光誕生日記念物として書いたものです。
 にも関わらず本人病気ですけど(笑)。
 普段風邪をひきやすそうなのは不二ですが、手塚は結構ずぼらなとこありそうだな、と。
 人にはうるさく言うくせに、自分は雨で濡れた髪を放ったらかしとか。

 

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