‥◆anniversaire◆‥

□伝達信号
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 何気なく目を向けた時計が深夜零時をまわった時、電話が鳴った。
 携帯ではない。
 携帯なら先刻からベッドに放られ、拗ねたように押し黙ったままだ。
 もっと遠くで鳴る音。
 一回。
 二回。
 三回。

 つい先程まで使用されていたはずの電話はいつの間にか暇を持て余していたらしく、新たな遊び相手を見つけたかの如く呼び出し音を響かせ、早く出るよう催促している。
 無意識に数えていると、五回目の呼び出しで機械音は途切れた。
 少し小走りに階段を上がってくる足音がした。
 目的地は、たぶん此処だろう。
 自分宛の電話だったのだろうか。
 二度のかるいノックの後、開いたドアから差し出されたのは子機。
 元々はこの部屋に置いてあったそれは、『ケータイ』という更に小型で便利な電話機が来ると、あっさりと一階の台所へ追い出された。
 そんなものが自分の手元にくるのは珍しい。
 高らかに鳴るメロディーをボタンひと押しで黙らせると、受話器を耳にあてた。

「なんか用っスか」
『……一言めからそれかよ』

 呆れたような苦笑混じりの声が返る。

「で、なんスか」
『一番に声が聞きたいんじゃないかと思ってさ』

 自信ありげに告げた声は明るく弾んでいる。

「聞きたかったのはそっちでしょ」
『意地張るなよ』
「どっちが。ま、何にしても残念だったっスね」
『何がだよ』
「普通さぁ、電話取り次ぐ時に無言で渡すと思います?」
『……い、いんだよ!家族は数に入れないんだよっ!』
「ふーん」
『うるせぇ!素直に喜べ!』

 受話器を握り締め、ベッドに放った携帯をちらりと見る。
 十数分前、ずっと携帯を掴んでいた。
 何度通話ボタンを押しても、聞こえてくるのは回線の混雑を告げる無機質なアナウンス。
 諦めて携帯を放り階下へ降りていくと、そこには既に先客がいて。盛り上がっているのだろう、話はなかなか終わりそうになかった。

「ねぇ」

 受話器の向こうでなにやらブツブツと呟いているのは無視した。

「今から家に来てよ」
『今?じゃあ除夜の鐘、撞かせろ』

 時計を見ると零時十分になるところだった。
 とうに百八回を撞き終わってることは黙っておこう。


  +Fin+


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 いつかの年明け一発目の更新として、元日限定で載せた桃リョです。
 一日限定だったので、おそらく目にした人がかなり少ないのではないかと。
 なので、最後の方を少し変えましたが、きっと誰も気付かないと思います(笑)。
 そういえばリョーマの家って鐘があるよね(正確にはリョーマの家のではないけど)、というところから出来た話です。

 

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