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□Deuilの作り方@
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『1.透明人間っておいしいの?』










それは昔からそこにあって、いつも変わらず荘厳な姿で北の外れから街を見下ろしていた。

何世代にも渡って、あの城に近づいてはいけないよ、あそこには吸血鬼が住んでいるんだ。
と言い伝えられていた。

そして、満月の夜には絶対に外に出てはいけない。
満月の夜になると、色白の美しい吸血鬼が血を求めてやって来るのだと。













「さて、今日は何を食べようか。」

ユーリは大きな城の大きな台所にある大きな冷蔵庫の扉を開けたが、残り少ないトマトジュースと萎びたキャベツしか入っていなかった。

「…まずいな。」

ユーリには家族がいたが、もう何十年も前にそれぞれ城を離れて行ったので、今ではユーリ一人がこの城に住んでいる。

しかし広すぎる城は一人ではとても管理しきれないため、使っていない部屋も庭も荒れ放題だ。

「面倒だが、何か買いに行くか。」


吸血鬼だと騒がれるのも面倒なので、深く帽子を被り、コートに手袋もする。
今が冬でよかった。
前にサングラスだけで行ったら髪の色でバレてしまったことがある。


…何を買おうか、久しぶりに甘いものも食べたい気分だ。




外は雪が降っていた。
こんなに寒くても、街は相変わらず賑わっている。


必要なものをあらかた調達し、ついでにチョコレートも買った。ブロックで。吸血鬼は意外と力持ちだ。

店のサービスでもらったホットチョコレートを飲みながら歩いていると、どこからか微かな歌声が聞こえた。

雪の空にしんしんと響く澄んだ声。


人気のない公園から、声だけが流れていた。

ベンチには一本のギター。

しかし、ギターの横のベンチには雪が積もっておらず、空を舞う雪が不自然に溶けて消えた。


「…透明人間か?」

ふと声が止んだ。

「いい声をしているな。」

「…そりゃどうも。」

何もない空間から、返事が返ってくる。


「私はユーリ。」

「ボクはスマイル。ボクを透明人間だって言い当てたのは君が初めてだよ。みんなオバケだと思ってるからね。」

ゆっくりと姿を現すスマイル。いたずらっぽい少年のような見た目をしているが、細過ぎるほどに痩せている。

「君は吸血鬼でしょう?」

「あぁ。」

やっぱり〜と言いながらスマイルは鼻を動かす。
「血のにおいがするもん。」

そう言われて、そういえばこのコートは父のものだったと思い立った。
父は吸血鬼らしく血が好きだった。


「ボクは止めといたほうがいいよ〜。」

「何がだ?」

「血だよ。絶対美味しくないよ〜。」

「あぁ、」
そういうことか。
確かに吸血鬼のイメージはそうだ。

しかし、吸血鬼にも好みがあることをスマイルに教えてやる。
ユーリが血を飲むのは1年に一度、特別な満月の夜に少しだけだ。


「ところで、なぜこんな所で歌っていたのだ?」

片方の深紅の眼を伏せるスマイル。
「…もう、家には帰れないからね。」

左目は包帯が巻かれていたが、血が固まった跡が残っていた。
「そうか。では私の城へ来い。」

「え…」

「ちょうど一人で退屈していたところだ。お前の声も気に入ったしな。ギターも聴いてみたい。」

「でも…」

スマイルの戸惑った様子に、ユーリは優しく微笑んでみせた。


「大丈夫だ。取って喰ったりしない。」

「…君が言うとほんとに怖いよ。」






こうして久しぶりに街に下りたユーリは、食料とともに透明人間を拾ったのだった。













つづく。





(2011/1/30)

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