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□Deuilの作り方A
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『2.透明人間ってなにでできてるの?』






スマイルという透明人間を拾ったあの日から、ユーリの日常は少しずつ変わりはじめた。


まず、テレビを買った(というか買わされた)。
なにやらギャンブラーZというヒーローの大ファンらしい。

古く落ち着いた装飾のリビングに無機質な液晶テレビがかなり浮いている。
騒がしいしあまり好ましくはないが、新たな情報源として使えるし、まぁいいか、と思う。




そして、スマイルは自由気ままで楽観的、大雑把なのに超偏食だということも最近わかってきた。

だからあんなに痩せているのだ…たぶん。


しかし本人はすこぶる元気らしく、あの粉雪の舞う公園での歌声はどこへやら、毎日ギャンブラーの唄(らしい)を熱唱しているし、最初に綺麗に掃除してやった部屋はすでに元通り散らかり放題だ。


実はユーリ自身も家事なんてまともにやったことが無かったし、料理らしいこともしたことがなかった。
ワイルドにトマトジュースをがぶ飲みし、野菜は手でちぎるし、肉はとりあえず焼いておけばいいか、という具合だ。


…誰かと暮らすというのは、意外と大変なものだな。


でもスマイルが来たことで、城の中が賑やかになったことは確かだ。
少し気になることもあるけれど。

それは、スマイルがここに来てから一度も包帯を取ったところを見たことがないことだ。
さすがに前のは血が付いていたので新しいのを与えたが、理由は聞かないままだった。

家には帰れないと言っていたし、話したくないこともあるだろうからスマイルから話してくれるまで待とう、そう思っていた。


片目でもちゃんと距離感をつかめているようだし…。
(スマイルのタックルは実に正確で、どこからでもユーリの肩にアタックしてくる。でも弱い。)



そんな感じに二人が打ち解けたころ、ある晴れた日の昼食時、唐突にスマイルが宣言した。


「今日から、ボクがごはんを担当します!」

満面の笑みで包丁を握るスマイルに、多少距離をとるユーリ。

「…それは構わんが、なぜだ?」

「だってユーリのごはん、味気ないんだもん〜」

「……。」

超偏食の自分を棚に上げ、さらりと言うスマイル。ユーリもいろいろ言ってやりたいことはあったが、正直料理が面倒くさいのでスマイルに任せることにした。



その日の夕方、キッチンからは久しぶりに調理された食物のにおいが漂っていた。
ふわりとスパイスが香って食欲をそそる。

これは…

「カレーか?」

「そ♪ボクの一番得意な料理。」

オタマを持ったスマイルが満足そうに振り返った。






カレー自体は実に旨かった。


…旨かった、が。


あれから1週間、毎日カレーである。


…心なしか肌がターメリック色になってないか?
毎日毎食後、鏡を見て鏡さんに聞いてみたいユーリである。


世間では朝カレーダイエットが流行っていたらしいが、なにせこちらは『常にカレー』ダイエットだ。(精神的にも)かなり効いたと思う。


最初のうちは我慢していたが、もう限界だった。


「スマイル、」

「何〜?」

「もうカレーは食べたくない。」

「!?」

ガーン!という表情でよろけるスマイル。
…むしろこっちがえー!!?とよろけたい。
どれだけカレー好きなんだ…。


「まさか……、腕が落ちた!?」

「いやそういう意味ではなく。」

即ツッコミのユーリに、相変わらず深刻そうに頭を抱えるスマイル。

「カレーのない人生なんて考えられない…ボクの8割はカレーでできてるのに…!」

「カレー○ンマンか。そんな青い肌して。」

「これは光の反射ですー。」

「とにかく今日から食事は交替制だ。」

「ちぇー」



その後、この制度によりユーリの料理の腕も少し上がったらしい。




昔はこんな風に誰かと折り合いをつけたり、提案することもなかった。

そもそも吸血鬼という種族は個人主義の傾向があったから、ユーリはスマイルとの同居を内心楽しんでいた。


破天荒で、予想外で面白い。


こうして二人の生活は少しずつ色を変えていく。


少しずつ
少しずつ

お互いの存在を楽しみながら。












つづく。
(2011/7/11)

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