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□キミには勝てない
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この先は、バスルームに続いている。


微かに湿った生暖かい空気と、それに混じって清潔なソープの匂いが漂う。

ふと見下ろした廊下は、大小の水溜まりでびしょびしょ。


「はぁ…」

また、だ。
こんなことをしでかすのは、彼しかいない。

前にも何度かあったから。


注意しても止めないし、だからといって濡らした床を掃除する気もないらしい。

なぜかと問うと、「アッシュがやるから」らしい。

あまりの無邪気さと理不尽さに驚いて、反論するのが遅れたせいで、スマイルは自分の言い分が通ったのだと思ったらしい。

それからというもの、たびたびこうして堂々と廊下を水浸しにしている。



…しかし自分はスマイルに甘い。
自覚はある。
元々世話好きということもあるが、本当はそれだけじゃないことも分かっている。


きっと髪もまだ濡れたままだろう。
早く乾かさないと冷えて風邪をひいてしまうかもしれない。

「仕方ないっスねぇ。」

手早く廊下を拭き、微かに香るスマイルの匂いを辿った。





蒼く濡れた頭が、リビングのソファからはみ出している。

気配を消して、そっと背後から近づくと、手に構えていたタオルをバサッと被せておもいっきりわしわし拭いた。

「わぁ!痛たたた!」

「スマ!ちゃんと乾かさないとダメじゃないっスかぁ。」

「え〜?大丈夫だよぉ。」

タオルを被せられたままの頭を背もたれに倒し、後ろ向きにアッシュを見上げるスマイル。


「何が大丈夫なんスか!」

「だから、ボクは風邪ひかないよってコト。」

「冷えたら引きますよ、いくらスマでも。」

「分かってないなぁ」

「何がっスか?」

楽しそうに笑うスマイルの意図が掴めなくて聞き返すと、スマイルは身体ごとこちらを向いてソファの背にもたれると、小首を傾げた。

「だって、ボクが冷える前にアッシュが拭いてくれるもん。ね?」

「な…」

確信犯の笑み。
いたずらに、妖艶に。


スマイルを捕まえたつもりが、どうやら罠にかかっていたのは自分らしい。
いつも先を読まれて負けるのだ。

でも、どちらにしても、それを望んでいたのは事実だったから。



やっぱり、キミには敵わないなぁ…

なんて言ったら、きっと調子に乗るから言ってあげないけど。




タオルをドライヤーに変えて温風をあててやると、スマイルは大人しくされるがままになっている。


触れるとわかる、まぁるい頭が愛しい。



たまにこうして、無自覚に俺の独占欲を満たしてくれるので、廊下を拭く手間くらいは許してあげようと思う。



しっとりと濡れた髪が、シャンプーの香りをただよわせてふわふわになるまで、キミの時間は俺のもの。









end.









□□□□□□□□□
アッシュとスマは世話焼きと世話焼かれたがりで丁度いいと思う(笑)


読んでくださり、ありがとうございます!


(2012/3/6)

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