原作沿い連載V

□標的67/目隠しのツケ
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血の気が失せるという感覚をこうもはっきり味わったのは、思えば久しぶりのことだった。
そうして気づく。
マフィアが自宅に居候して銃火器飛び交う毎日を過ごすことに、自分は慣れてしまっていたのだということに。
非日常であることを常に訴えながら、自分は知らず知らずのうちに、それを当たり前としてしまっていたのだ。


信じてもらえるはずがない。
信じて欲しくもない。
本当は、誰かに受け入れて欲しいと心のどこかで願っているはずなのに、一番信じたくないのも自分だからこそ抱える矛盾だった。
知識から逸脱したかった。
なにがなんでも、こんなことにならないように………
ここが『あの世界』だと思いながら、違う世界だと実感できる何かが欲しかった。
リボーンを追い出せれば、マフィアになんて関わらなければ、それが叶うのだと思っていた。
ずっと、それだけを希望にしてきた。
REBORNの話はとても好きだったが、それはフィクションだったから。
蚊帳の外だったからだ。
ここがREBORNのような世界だということは、もう変えられないかもしれないが、
これからどうなるかは変えられるかもしれない。
ニナは綱吉ではない。
綱吉のように、挫けそうになりながら、それでも立ち向かっていけるような、すごい人になれる自信なんてない。

さっきのこともそうだ。
よりにもよってあのリボーンに縋ろうとしただなんて、どうかしていた。
いざ振り返ってみれば、自分かいかに混乱していたかがよくわかる。



「なにやってんだろ……私」



繋がらない電話を切ると、10円玉が転がり落ちてきた。
公衆電話を使う中学生も珍しいだろうが、ニナは携帯を持っていないので仕方がない。
その昔働いていた時代、公休にかかってくる携帯がプライベートまで職場に拘束されているようでストレスに感じたこともあり、
ニナはあまり携帯電話を欲しいと思ったことは無かった。
あった方が便利だろうし、まだ中学生なのだからそんな心配もいらないだろうということはわかっているが、
本当に携帯を持ったことのない子供とは違うニナにとって、それは然程興味をひく対象でもなかったのだ。
花にはメールも出来ないのは不便だからと、いいかげん持ちなよ、あんたは年寄りかと、
あながち間違いでもないところがちょっぴり痛く感じることを言われるため、そろそろ持つべきかな、とは考えているが。


「やっぱり公衆電話じゃ出てくれないか」


フゥ太の並中ケンカランキングの3位は獄寺だった。
携帯を持たないニナがすぐにでも連絡をとるとすれば、公衆電話しか手段はない。
だからと一抹の望みをかけ、病院の公衆電話からかけてみたが繋がらなかった。
公衆電話からは拒否に設定してあるに違いない。
おそらくそうではないかと思っていたニナは、それならばと、並中に向かうべく病院を出る。
並中には2位の山本もいるはずなので、どのみち行かねばならない。
これで獄寺が学校をサボっていたら、その時は学校の電話でも借りて、それが無理なら家でまた電話するしかない。

そうやって考えを巡らすニナは知らないが、獄寺はニナが携帯を持っていないことを知っているので、
今時珍しく、公衆電話を着信拒否していなかったりする。
そのせいで余計な電話に舌打ちも多いが、10代目からの連絡が来るかもしれないので、そうせずにはいられない。
そして今日、ニナは初めて公衆電話から獄寺に電話をかけることになったというのに、
獄寺の知られざる影の苦労が報われることはなかった。




「うそっ帰っちゃったの!?」

「ケータイの充電切れたから帰りますってさ」

「(繋がらないはずだわ…)」


遅刻してきたニナが病院に行っていたと言えば、教師はそれ以上問い詰めることもなく、席につくようにとだけ言った。
ニナが言われるまま席についたのは教室にいない獄寺について花に話を聞くためで、
彼女はどうでも良さそうに獄寺の遅刻と早退について話してくれた。


「京子もお兄さんがケガしたとかで病院行ったみたいだけど、どーしちゃったわけ?」

「う、うん…私も先輩のお見舞い行ったから会ったんだけど……
 ねえ花ちゃん、獄寺君どこに行くとか行ってなかった?」

「私がサルの行き先なんて知るわけないでしょ」

「そっか…ありがと
 武君が起きたら、黒曜の人に気をつけて、危ないからひとりにならないようにって言っておいてくれる?」

「ちょっとニナ?」

「出来れば家に来てくれた方がいいかも、ビアンキたちもいるし…よろしく花ちゃん!
 先生、すみません!都合が悪いので早退します!!」

「沢田!?
 それを言うなら具合が悪いだろっ!今来たばかりのくせにどこ行くんだーっ!!」


本当のことなので仕方ない。
気を取り直して黒板に向かっていた教師が廊下に顔を出したときにはもう、揺れる茶髪は階段を下っていて
彼の叫びだけが廊下に木霊した。
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