拍手お礼〜IFシリーズ〜

□〜 IF CASE 骸 U 〜
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「犬、どーしたの」

「…今ごろどーしてんのかなって」


食堂で犬の姿を見つけた千種は、自分の分のトレイに食事を載せて俯く犬の前に腰を下ろした。
彼らが気にかける人物はたったひとりだけ…その彼女の話題に、千種もメガネの奥の瞳に陰りを見せた。
ここに囚われて早1週間。
自分たちは食事や労働などの時間以外こそ檻の中へと閉じ込められるが、
その檻の中だって消灯時刻までは電気の灯りだってあるし、柵越しにではあるが太陽の光だって届く。
こうして食堂へ足を運んで、話すことだってできる。


「なんであの人だけ別の場所なんだびょん!」


エストラーネオに再び捕らえられてから、再び逃げ出すために、もう2度とあいつらに追われないようにと死に物狂いで戦った。
結果…エストラーネオの本部に、生きている人間はいなくなった。
その直後、今度は大罪を犯した罪深きマフィアとしてこの刑務所に収監された。
マフィアを抜け出すために戦ったというのに、マフィアとして囚われるなど滑稽すぎる。
そして主犯として、要注意人物として、彼女だけが最も深くて暗い場所に閉じ込められた。
食堂なんてもってのほか、彼女は一歩として外に出ることは叶わない。
時折頭に響く声、それだけが彼女の無事を示す便りだ。


「それ何度も聞いた…めんどい」

「らってさ……」

「…それだけあの人が厄介な存在だと思われているということだ
 主犯だから、リーダー格だから…そういったのは体裁を取り繕いたいだけの口上だろう」

「オレらだって地下牢でもいーじゃんか」

「あそこはあの方だけしか今は収監されてはいないと聞く…
 そんな場所でわざわざ仲間を一まとめにしてくれるほど優しい奴らじゃないよ」


それではどうぞ脱獄の相談でもしてください、というようなものだ。
犬が俯いて、囚人用の作業服に包まれた腕を押さえた。
袖に隠れたそこには、あの日彼女がつけた傷……今も自分らと彼女を繋ぐ証がある。
どうしようもなくてもどかしい気持ちになると、自然と触れてしまうようになった。
千種も1人でいると、その傷を眺める癖が出来てしまった。
犬も千種も突然斬りつけられたときは驚いたけれど、すぐに何か彼女には考えがあるんだとわかったから
恨んだりなんてしなかった。
むしろその逆だ………自分たちと彼女を繋ぐ目に見える絆が出来た。
今は、それがとても嬉しくて…愛しい。

そうして考えるのは、大切なあの人のことだけ…あの人は、いつも自分たちを守ろうとする。
庇護すべき対象として考える。
それが嫌だった。
だけど、自分たちはあの人に比べればまだまだ何も知らない、何も出来ない子供と同じだった。
強くなりたい…あの人を守れるくらいに強くなりたい。
自分たちを追い詰めるものは、全て薙ぎ払ったのだ。
あの頃はそんなこと夢にも思っていなかったのに……人を殺すのは楽しいわけじゃないけど、
彼女と共にあるためなら何だって出来る。
前に自分たちがそう言ったら、あの人は泣きそうな顔で、悲しそうに申し訳なさそうに、でも少しだけ嬉しそうに笑ってくれた。
いつか、彼女に満面の笑みを浮かべさせることが出来るように…強くなりたい。
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