拍手お礼〜IFシリーズ〜

□〜 IF CASE 骸 U 〜
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石造りの牢に鈍く響く足音。
それ以外はほぼ無音と言っても過言ではない。
この刑務所で最も深く、そして暗い場所。
長く続く闇を照らすものは、小さな蝋燭がいくつかだけだ。
必要な場所のみにそれはあった。
看守の佇む入り口と、この地下牢に唯一収監されている少女の前に。


一定時間の間隔で、少女の様子を見るために看守が歩くその音以外は、微かな息遣いくらいだ。
粗末なトイレと、その横にある硬い寝床。
寝床はベッドなどと到底言えるものではなく、ただ床がそのまま畳一枚ほどの大きさで区切ってあるだけのようなものだった。
薄汚い毛布の上では、少女がひとり夢を彷徨っている。
今は閉じられているオッドアイが、瞼の裏で赤く煌いていた。





繋ぐ絆と狭間の邂逅 〜 IF CASE 骸 U 〜






やはりエストラーネオを潰したのはまだ早かったのだろうか…?


夢の中の少女は思った。
そもそも、彼女が囚人となってしまった理由がこれだったのだ。

本当は滅ぼす気なんてなかった。
復讐なんてナンセンスだ。
ようやく手に入れた自由を、あの子達と一緒に…犬と千種と一緒に味わいたかっただけなのに。


研究所からなんとか抜け出すことが出来たというのに、自分たちへの追手がいたのだ。
証拠隠滅は完璧だと思っていたのに、研究所の管轄ではない監視カメラが数箇所に点在していたため、
気づかないうちにそれに映ってしまっていた。
これは研究所の職員の知るところではなく、兵器の開発が成功した場合の研究所の反乱を恐れた本部の独断である。
研究員をマインドコントロールした上での隠蔽工作では、それに気がつくことが出来なかったのだ。

研究所が壊滅に陥ったその日に抜け出した3人の子供。

その映像だけで、答えは十分だった。
エストラーネオは兵器の開発の成功を知り、そしてそれを再び我が物としようと乗り出したのだ。


逃げられない…そう思った。
あの地獄のような場所を抜け出したというのに、狙われる毎日では夜も安心して眠られはしなかった。
日に日に落ちる気力と体力。

もう限界だった。
障害物の多く立ち並ぶ裏通りで、肉眼では確認できないような遠くから狙撃された。
どこにどれだけいるのかもわからない狙撃犯には、さしもの幻術も役には立たなかった。
修羅道の格闘スキルを使えば、かわしながら逃げることも可能だったかもしれないが、それでは犬と千種が危ない。
せめてある程度の位置がわかれば幻覚やマインドコントロールでなんとかなったかもしれない。
私たちの周りには狙撃犯だけではない、数々の黒服達が取り囲んでいる。
たった子供3人に、随分と大掛かりなことだ。
狙撃犯を探しに行けば黒服の連中に、黒服を蹴散らせば狙撃される。
私はこの場は降伏するしかないと思った。
そうすれば、少なくともこの場で強制的に痛めつけた上に捕獲されることも、やむを得ずと射殺されることもない。
犬や千種を失ってまで得たいものなんてなかった…命がある限り、何か出来ることがある。
早々に諦めた私に困惑気味の犬と千種に、私は三椏の槍で傷をつけた。


「約束、また…」


私からつけられた傷の痛みにますます困惑する彼らに、小さく告げるとそこで私の意識はなくなった。
隙を見た黒服の1人に手刀を落とされたのだ。
あの子達が、私の名前を呼んだ気がした。

絶対に死なせはしない。
あの子達との連絡手段はついた。
研究所には原作の憑依弾はなかったので、意思の疎通のみの契約だけど…これでたとえ別々の場所に引き離されたとしても
態勢を立て直すことができる。
必ず機会を見て、次に目覚めた時は何としてでも自由を手に入れる。
そして、そのためにはこれ以外思いつかなかったのだ。


あの時と、研究所の時と同じように………奴らを根絶やしにする以外、他に……
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