ホィップ多めで

□虚想愛猫
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ねぇ、聞いた?三番隊隊長のはなし。


酷く厭なものを聞いたものだ、と僕は思った。
三番隊隊長というのは、紛れもなくあのひとの事で。
陰口なら他所で遣れ、と僕は居たたまれなく唇を噛んだ。
聞き耳を立てて居る訳ではないが、聴こえて来る。
薄い壁の、向こう。開いた戸から覗くふたつの頭。
潰した所で出てくるものは脳髄か。

「下の方に、ちょっと有名な寝宿があるじゃない?
そこの子、隊長の前で粗相をしたらしくって」

死んじゃったんだって、という言葉にえぇ、と話を聞いていた女性が口を押さえた。
僕はそれを横目でみて、本棚へと視線を移す。
なんだ、そんなこと。

殺された方が悪いに決まってる。

あそこのおんななんてみんなそんなもんじゃないか。

そう、吐き捨てた。
ふぅと息を吐いて、思考を遮る。
くだらない、こんなこと考えてる場合じゃないのに。
必要な資料を手にとって執務室へ戻る。
話し込んでいた女性隊員達は僕が出てくるなり、慌てて頭を下げて持ち場に戻った。
去り際に、ひそりと声を潜めて呟いた一言。
―――陰口なら他所で遣れ、と、僕はもう一度そう思った。





――僕が、市丸隊長の寝子だということは噂されていた。



だからって僕があのひとに肩入れしているとでも思われているのだろうか。
あのひとの名誉の為に、僕が、ひとを殺めるとでも。
僕はあのひとに酔っている――訳では、ない。
寝子だ何だと言うけれど、出すもの出したらはい終わり、の至って健全な関係だ。
もっとも、ぼくはそれでしあわせなのだけれど。


執務室に戻れば、市丸隊長は机に伏せていた。
また寝ているのか、と最早恒例となった溜め息を吐いて、肩を揺すった。



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