ホィップ多めで

□鳥篭
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「…ッ、ぅァ!」
ごす、と鈍い音がして一瞬目が眩んだ。
そのまま壁に叩きつけられて、身体の方から厭な音がしたけど気にするのをやめた。

「お前は誰のモンや」

こっちは息が詰まりそうだというのに、お構いなしで言葉を浴びす。
みしり、と、踏みつけられた。
その衝撃でまた吐き気を催すような圧迫感に涙が滲む。

「言うてみ」
「申し、わッけ……ませ、ん」
「言・う・て・み」

謝罪を述べれば、そんなことはどうでも良いと踏みつける力が更に加わる。
やがて身体が悲鳴をあげ始め、僕は苦しさに言葉を紡ぐ事も困難になる。

「ッま…ぃちょ、の・・・・」
「聞こえへん」
「ッ、ぅア…!」

蹴り上げられた拍子に胸の辺りが厭な音をたてたが、そんな事よりどうして隊長の機嫌を直すかが問題だった。
痛みで頭はまともに働かない。けれど、考えることを止めてしまえばこのままだ。
どうしようどうしようとぐるぐる考えていると、くちびるは無意識に「市丸隊長」と溢した。
「せやなァ」
とりあえず言いたい事は伝わったようで、倒れこんだ僕に視線を合わせるようにして、隊長は屈みこんだ。
顎を捕われて虚ろながらもしっかり視線を合わせると、市丸隊長はゆったりと笑んだ。
それが嬉しくて僕も微笑もうとしたが、もう何もかもが痛くてうまく笑えなかった。
僕の様子に隊長はにぃ、と、嬉しそうに口端を吊り上げて、笑う。


「イヅル、笑ろてんの?ボクにこないにされてんのに?」


究極のマゾヒストやな、なんて言われても僕には何かを言う気力なんて残ってなかった。



***



薄らと瞼を上げれば、淡く白く光の差す部屋に居る事に気付いた。
暫くは頭がぼうっとしていて、考える事すら放棄してしまっていたが、ふと思い当たるものがあって青褪めると同時に覚醒した。
一刹那前までは重かった瞼も、目は冴えて心臓がドクドクと厭な音を立てた。
ぞく、と厭な悪寒が背筋を抜けて、反射的に右を向けば尚も恐ろしい市丸隊長が目に入る。
「お早よ」
「ッ、ぅぁ…!」
がばりと身を起こそうとしたが彼の腕に絡め取られて、癒えない傷がじくりと痛んで顔を顰めた。
そんな様子に、くつくつと喉の奥で殺しきれない笑いを漏らす。

「まぁだ動いたらアカンよって」

どうせ立てへんやろけどな、と残酷に言葉を残して、まわした腕で腰へと触れる。
何も纏っていないために直に触れるその感触がくすぐったくて、気持ち悪い。
身を捻ろうともがく度に痛みは襲う。それでもこの期に及んで未だ何かをするつもりかと不信に視線をよこせば、
どうしたのと小首を傾ぐ仕草をみせながらゆるりと腰を撫でた。
身構え、脳裏に甦った昨夜の行為に恐怖を感じて強く眼を瞑った。抗えば同じ事を繰り返すだけだ。
いっそ薙いでくれた方が楽だろうと思うが、このひとはそれを赦さない。
臓物を失くしたとて、手離すことはしない。―――だろう、と思う。
それこそ、骨の髄までしゃぶり尽くされそうだ。


「一応、四番さんに診て貰ろた方がええやろ」

不意にそんな言葉が聞こえてきて、眼を開けば心配そうな隊長の顔が目に入る。
そんな表情をするくらいなら―――ッ…

何故、と問えばイヅルが悪いと返ってくるか。
正直、何故こんな目に遭わされたかが理解できずにいた。昨夜は恐怖と痛みでそれすら考えることを忘れていた、が。
自身には思い当たる節がない。今まで幾度か似たような目に遭わされた覚えはあるが、其れらの全てに理由が見当たらない。
執拗に市丸隊長のものであると答えさせるのは、――彼のものであると認識させるには、原因となる何かがある筈なのだ。


誰、だ?


この人は、誰に対してそこまで嫉妬心を抱くのか。或いは――僕への。




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