斗南もすっかり本格的な夏に入り、比較的いつもより暑い日が続いている。
からりとした暑さではあるのだが、昼間はやはり蒸し暑さもあるのでやっかいなのだ。
この地へ移り住んで早5年。
もちろん5年経った今でも、斎藤夫婦は新婚の時のように何も変わることなく仲睦まじく穏やかに暮らしている。
だが、1つだけ変わったことはある。
「わー!つめたーい!」
あともう少しで5つになる大切な我が子の存在である。
家のすぐ前の小さな庭で、冷たい水の入った比較的大きな桶の中で、無邪気に水浴びをしている最中だ。
幼子にもひんやりと冷えた水は熱った体にちょうど良いようで、先程から1人でずっと涼んでおり、その我が子の姿を父と母がすぐ傍らで見守っている。
「一真は、また水浴びをしているのだな」
「はい。まだ5つの子が、毎日あのような稽古を一生懸命しているのですから、こうなるのが自然でしょう(笑)」
「そ、それは確かにそうだが…、俺としてはこう毎日冷たい水を浴びていては、風邪を引いてしまうのではないかと…。」
「大丈夫ですよ一さん。夏風邪になると大変ですから、その点は私も気をつけていますので」
柔らかな微笑みを向けられた斎藤は、微笑を浮かべて軽く頷きながら我が子へと視線を戻した。
すると同時に我が子の声が掛かり、斎藤はすっと腰を挙げて庭へと足を運ぶ。
「とうさま!とうさま!こっちきて!」
息子は父親がやってきたことに気付き、嬉しそうに笑いながら腕を伸ばす。
斎藤は息子の視線までしゃがみ、持っていた手ぬぐいで、浴び終えたばかりの息子の頭や体を軽く拭いてやる。
頭をわしゃわしゃと拭かれて、にこにこしながら甘える我が子に斎藤の口元も自然と緩む。
「気持ち良かったか?」
「うん!おけいこのあとにあびると、とってもきもちいいんだよ!」
「そうだな。…一真、稽古はつらいか?」
「ううん。つらくないよ!あのくらいへいき!ぼくはとうさまみたいになるんだから、
このくらいだいじょうぶ!」
不慣れではあるが、綺麗に洗濯された新しい着物に自分で着替え、そばに置いてあった草履をはき、そのままぎゅっと目の前にいる父親に抱きついた。
斎藤は息子の背をぽんぽんと叩き、そのまま抱き上げて縁側へと戻る。
「さあ、もう一度ちゃんと髪を拭きましょうね。風邪をひいては困るから」
「はーい!かあさま!」
「あ、一さん。よろしければ、勝手場の所においてある氷菓をもってきて
いただけませんか?3人分用意してあるので」
「分かった。持ってこよう」
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