りぼーん

□満員電車
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ピーンポーン…

AM10:00 沢田宅には玄関先からチャイムの音が鳴り響いた。
自室で出掛ける支度をしていた綱吉は、「あっ、来ちゃった〜」と焦りながら部屋を出る。
階段を下りて、誰か確認もせずに急いで玄関の扉をあける。

「おはよう御座います、十代目!」
玄関には、満面の笑みを浮かべ威勢のいい声で挨拶をする獄寺が立っていた。
いつものようにお洒落なアクセサリーを身につけ、黒と赤のパーカに描かれた髑髏のデザインが彼によく似合っている。

「おはよう、丁度今準備出来た所なんだ。ちょっとばたばたしちゃったけど…」
綱吉は、寝癖が付いてないかな、だとかお金持ったよね、などと言いながらごそごそし始めた。
「大丈夫っすよ、十代目。金たりなかったら俺がたてかえますから」
心配そうな表情の綱吉にふっと微笑みながら言う。
「もー、これだからお坊っちゃん育ちは…」
余裕なかおでさらりと言ってのけた獄寺を見て、ぶつぶつ言いながら呆れたように苦笑する綱吉。
「とにかく、そろそろ行きましょうか」



今日は、獄寺くんとデートです!


*満員電車*


今日はナナも朝からチビ達とビアンキとセールがあるとかでショッピングに出かけてしまい、リボーンも野暮用があるらしく、綱吉だけがとり残されるのは寂しいので獄寺を誘ってみたのだった。
獄寺は、「十代目から誘って頂けるなんて光栄です!行きます!行きましょう!」と快く受けいれてくれた。
その後2人で相談して、県内の近くのイタリアン料理店でお昼を食べにブラブラしにいく事になったのだ。
近くといっても電車で15分ほどかけて行かなければいけなかったが、美味しいと評判で獄寺君も「本家に近い味なんで良く行くんす!」と勧めてくれたし、イタリアの料理にも慣れて置こうということで、お小遣いをはたいて行く事に決めた。


ガタンゴトン‥ガタンゴトン‥
電車が車両を重そうに揺らしながら進む。

くっ、ぐるじい…っ
綱吉は、電車に乗ったことを後悔していた。
だって…
まさか‥こんなに満員だなんて思わなかったんだもん!!
ショッピングに向かう女子高生くらいの子達、休みだと言うのに出勤するサラリーマン、デートに出掛ける若いカップル…

はあー、これじゃあ着くまでにぐったりしちゃうよ…。
それに…

綱吉は、ちらっと顔を上にあげて見る。

ごっ…獄寺君が近すぎ…!
もう、こんな状態で15分も揺られてるなんて耐えれないよお…!!

そう。綱吉が、足を蹌踉けさせたり回りの人達に押し潰されて苦しそうにしているのを見ていられなくなった獄寺は、吊り革を握っている腕の反対の腕で綱吉の肩をぐいっと抱き寄せ、自分の胸にぴっとりとくっつけ、片腕の中に閉込めたのだ。
確かに、こうしていれば綱吉の小さな体は獄寺のしっかりとした体で守られるので、さっきよりは楽になった。
なったんだけど…でもこんなに密着してると、心臓がもたないよー!
それに、絶対…
絶対獄寺君、変なこと考えてる!!
綱吉は、獄寺の顔を見上げながら難しい顔を浮かべる。
彼は吊り革に掴まりながら、車両がガタンゴトンという度に綺麗な銀髪を揺らしている。
緑色の瞳は前のサラリーマンの背中をぼーっと見つめていて、その表情に長いまつ毛が映えている。
ほんと、獄寺君って綺麗だよなあ…
気難しそうな顔がたちまちうっとりとした顔に変わって行く。
「なんすか、十代目」
綱吉の視線に気付いたのか、初めから気付いていたのか、急にふっと綱吉に視線をさげた。
「えっ、と、別に…」
いきなり目があって、びくっと肩を強張らせ、目を逸らす綱吉。
「やっぱ、なんでもないっす、ずっとそうやって俺のこと見てて下さい」
獄寺が嬉しそうに微笑んだ。
見とれてたってことバレたのか、と気付き苦笑する綱吉。
「でもずっと上見てると首痛いよー。それに、電車の中でいちゃつくのってバカップルみたいじゃん」
上目で見詰めながら声の大きさを小さめにして話す。
「いいんです、バカップルですから」
獄寺の言葉に咄嗟につっこもうとしたが、周りから変な目でみられるのは嫌なのでやめておき、「もお…」と口を尖らせるだけにした。

「十代目、ほんっとうに申し訳ないんですが、便所行って来てもいいすか?」
少し間が空いて獄寺が口を開いた。
「うん、いいけど、すごい混んでるよ?」
周りを見回しながら心配そうに尋ねる。
「平気っす。そんなことより十代目のほうが心配で…暫くは、つらいだろうけどこの吊り革握ってて下さい。それかこっちのバーでも。すぐ戻るんで、何かあったら叫んで下さいね!!」
まるで母親が子供に留守番をさせるかのように言いつける獄寺をくすくすと笑いながら、
「ありがと。早くいきなよ、もれるよ?」
「有難うございます、行って来ます!!」
獄寺は人ごみを掻き分けてあっと言う間に紛れて行った。

隣にいなくなって少し寂しさを感じていると、おしりのほうに何か違和感を感じた。
な、なんか当ってるような…?
不思議に思い振り返って確かめようとするが、人が多くてとても無理だった。
諦めてじっとしていると、今度は確実なものが触れた。

「!」
な…っ
お、おしり揉まれた!!
綱吉は、誰か男性とおもわれる大きな手が自分の後ろを一瞬揉んだのを感じた。
やがてその手は、もう一度ゆっくりと其処を揉みはじめた。

まっ、て…これって…
痴漢…!?

綱吉は急に心拍数があがり、どううすればいいのか分からなくなった。
「ちょっ、と…やめっ…!!」
小声で抵抗してはみても、相手は全く聞く気がないようだ。
どうしよう…。
ここで叫べば獄寺君は助けに来てくれる。でも、男が痴漢にあってるなんて大勢の人にしられるなんて恥ずかし過ぎるし、俺にそんな勇気ないよ…!!
ここは我慢するしか…
そう思ったときだった。

「え、ぁ…!?」
急に、後ろから上手く手を伸ばし、服の上から乳首を撫でられた。
あまりに突然で驚いたせいもあって、綱吉の口からは声は漏れた。
や、ばいっ…!
急いで口を両手で抑える綱吉。
どうしよう…なんかやばくなってきた…っ
相変わらず後ろの顔も分からない男性は綱吉の乳首を弄ってくる。
そのたびに出てしまういやらしい声と吐息片手で抑え、必死に誤魔化した。
「っ…ふ」
綱吉の体はどんどん熱くなって行き、下半身が熱をおびて行くのを感じた。

やだっ…やだやだあ…!!
こんなの、獄寺君に見られたく無いよお…!
獄寺君っ…!!
俺は、獄寺君にしか触って欲しく無いのに…。

綱吉の目にじんわりと涙が込み上げる。
吊り革を掴む腕が力を増していく。
背後の男の息が荒くなって来ていて、綱吉の肩にあたり気持ちが悪い。
もう…限界だ。

そう決心して、綱吉が大声を出そうとしたときだった。

「…オイ」

男の背後から低い声が聞こえた。
男は、一瞬肩を強張らせうしろを振り返った。
綱吉も同時に振返った。
「ごく…でらく…っ」
其処には、トイレから戻ってきたであろう獄寺の姿。
彼はすごい剣幕で男の手を綱吉から引き剥がし、その腕を強く握った。
「この方に触れて良いのは俺だけだ」
そう言って腕を握る手に一層力を込め、男を睨む。
「もう一度触れて見ろ。お前のこの腕をへし折ってやる」
男はがくがくと震えながら、次の駅で降りて行った。
綱吉と獄寺も、丁度その駅で降りるつもりだったので、ぞろぞろと降りていく人混みに紛れながら降り、ひとまず駅内の喫茶店へ向かった。
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