短編

□棘
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 心臓をえぐり出して飲み込  みたいくらい好きだった。













 「べ、しょっ、」

 拘束した両手がもがくのを  見るのが好きだ。
 恥じらうように脚を閉じよ  うとするからそれを無理矢  理開かせるのが好きだ。
 細めた目が合うとすぐ逸ら  すのが好きだ。
 彼女が悲鳴にも似た声を漏  らした瞬間。ああ勿体ない  と思った。
 その声さえも飲み込みたい  。
 自分の中に取り込んで温め  て真空パックみたいにして  ずっとずっとしまっておき  たい。
 そして時折取り出して頭か  ら被りたい。

 指を大きく動かすと脚に力  が入って身体が反れた。
 その身体を無理矢理押さえ  つけてもっと奥へいきたい  。

 奥

 奥

 もっと

 ねえ



 「っ、しょ、さ」


 名前呼んでよ

 でも呼べないくらい壊した  い

 でも呼ばせたい

 壊したい

 もっと

 もっと
















 「私、別所さんより何倍も  何百倍も悪いやつなんだよ  ?」

 「ふうん」

 「…汚れたやつなんだよ?  」

 「だから?」

 「なんで私を抱いたりする  の?」

 「知らない」

 「他の女もおんなじように  抱くの?」

 「抱かない」

 「なんで?」

 「綺麗な女には棘があるん  だってさ」

 「…じゃあ私は綺麗じゃな  いってこと?」

 「ふ」

 「なに笑ってんの」





 棘どころか毒まで丁寧に忍  ばせてある。
 太くて鋭い無数の棘。
 抱きしめればずぷりと体中  に突き刺さる。
 それでもやめられない。
 彼女の全てが欲しい。
 棘が刺さるからなんだって  いうんだ。
 汚れているなら汚れごと愛  そう。
 棘があるのなら棘ごと愛そ  う。
 たとえこの痛みが死を呼ん  だとしても。











ただ夢中に





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