短編

□戦場カメラマンと女
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レンズ越しの光景が次々と静止していった。

カシャ


カシャ


僕は戦場カメラマン




戦場カメラマンと女




――写真を撮ってくれないか


友人がこぞって言った。友人の笑顔をレンズにおさめ

「はい、笑ってー」

カシャ



そんなある日に僕の前に訪れたのは軍服の男達だった。

――写真を撮ってくれないか。

戦場の




















殺風景な街は灰色だった。

カシャ

カシャ


「ちょっと君、何を撮ってるんだ」

肩を叩いてきた男性は軍服を着ていた。

「僕は戦場カメラマンです。政府に命じられたんです」

「名前は?」

「新藤です」


男性は無愛想にご苦労様と言って立ち去った。

僕はシャッターに指をかける。


カシャ



走り去る、軍服の男性
その先には銃を背負った兵士達が何人もいた。



人間はどうしようもないと思う。
何百年も世の中を見てきたわけではないが、どうしてこうも悲劇を繰り返すのだろうか。
この写真が記録したものを見て「二度と繰り返してはならないね」と誰が思うのだろうか。

僕はただ、シャッターをきるだけなのだけれど



ふと、立ち止まる。

そこにいたのは男の子だった。
うろうろと歩き回っている。
僕はすぐに歩み寄った。もちろんカメラを抱えて。


「なにをしとるん?」

くりっとした目を僕に向けて、男の子は言った。

「お姉ちゃん知らない?」

「お姉ちゃん…いついなくなったん?」

「空襲の後から」


僕はカメラを構えた。汚れがついた彼の顔。姉を亡くした弟。の図。


「お姉さんは…きっと…」

「あっ、姉ちゃん!」

ふっとレンズから男の子が消えた。瓦礫を踏む足音が左へと走る。

生きてたのか

胸を撫で下ろしてレンズを覗いた低姿勢のまま左へと体を向けた。

男の子が両手を大きくのばして歓喜を表す。
その男の子の頭を撫でる手



目があった

レンズ越しに



少し乱れた長い髪。
歳はいくつだろうか。
18…19…
男の子の姉にしては年が離れていることは確かだ。

男の子と違って、衣服は汚れていたものの顔に汚れはなかった。

そしてなにより美しかった。


微笑んで、軽く頭をさげてきた彼女を見て、ようやくカメラから顔をあげた。
肉眼で見る彼女もまた美しかった。





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