*短編*

□催涙雨
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今日は雨。
朝からずーっと。
……つまんない。


「つまんないー!」

「うるさいよ、佳乃」


パソコンをいじる帝人に突っ込まれる。
帝人はいいでしょうよ、私はつまんないんだもん!


「七夕の日に雨とかあり得ない。ほんとあり得ない」

「はいはい……」


ぶすっとして帝人と背中を合わせて座ると帝人がパソコンの方に身を乗り出す。
ぐぐぐっと体重をかけると帝人が振り向き、額をぺちっと叩かれる。
……地味に痛い。


「あーあ……。織姫と彦星、会えるのかなあ。地球上の恋人は大体の人が会えるのに……。年に一度だけなのに……」

「仕方ないよ、佳乃。彼氏が欲しいなら雨でも当たってきたら?」


その言葉にドキッとする。
彼氏が欲しいとか、そういう訳じゃないけど、私は帝人が好きな訳で。
嫌な意味でドキッとした。


「な、なんで……?」

「七夕の日に振る雨って、織姫と彦星が流すっていわれている涙、催涙雨っていうらしいよ。だからその雨に当たれば少しは恋愛に強くなるんじゃないかと思って」


帝人がパソコンから手を離し、語りかける。
畳はしめって、独特のにおいがする。


「……別に、そんなのなくても」

「そうなの?」


私の頭の上に更に頭を乗せる。
帝人が近い。
ふと力を込めた手が帝人の手とぶつかった。
心臓が大きく跳ねる。


「だって、私好きな人いるし……。あ、今意外って顔したでしょ!」

「してないよ、多分」

「私はしっかり見ました!」

「わかったよ、したから」


適当に誤魔化そうとする私の意図も一瞬で終わり、帝人が笑う。
その笑いが余計に心臓を加速させる。


「で? 佳乃の好きな人って誰?」

「えっ……言わなきゃ駄目……?」


首を後ろに向けて問うと私の頭から退いた帝人の後頭部が見える。
しっかりと頷いていましたよ。


「……私の好きな人は、あの雨に当たらなくても、すぐ側にいる人。すぐに恋人になれる人」

「へえ……そっか。僕も、雨には当たりたくなかったんだ」


織姫様と彦星様の涙は、素敵なもの。
二人の涙で恋人達は一緒にいられた。
だから私は、二人の幸せを願います。





大切な、この世で一番幸福な恋人達を。





(どうせならはっきりした答えが欲しかったのに)

(それなら言ってくれればよかったのに)

(僕は佳乃が好きだよ)

(っ! そういうことじゃなくて……!)
 

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