*短編*

□綿毛に負けず
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青い空に白い雲を思わせる綿毛が飛んでいく。
綿毛といえば、ずっと前に臨也に聞いたことがある。
綿毛が耳に入るとその中で育つって。
だから今でも嫌い。


「……なんだよそれ」

「だって親戚のお兄さんがそう言ってたんだもん。正臣はどう思う?」


親戚のお兄さんとは臨也のこと。
臨也の名前を聞くと正臣が嫌がるから。
もちろん、そのことはこっそり臨也から教えてもらった。


「そんなの迷信に決まってるだろ? 全く、そんなこと信じるなんて可愛――」

「でもさー、たんぽぽってどんなところでも咲いちゃうじゃん。だから本当かも」

「あれ? 無視?」


こんなのは慣れっこです。


「確かにさ、咲くけど……人の中だから咲かないだろ!」

「そうかなぁ……。だったらいいけどさ、もし耳の中に入ったら……」


うじうじと悩んでいると正臣はニカッと笑って私の頭を撫でた。
そのまま短くも長くもない髪の毛をいじり、サイドの髪の毛を耳の上へ持ってくる。


「こうしたら入んないんじゃないか?」

「えー、でも暑い」

「文句言うなよなー」


唇をとがらせ、正臣は髪の毛を元に戻した。
いくら春だと言っても暑い。
髪の毛を未だにいじる正臣は、急に「あっ」と声を上げた。
びくっと


「じゃあ、こういうのはどうだ?」


なんなのか聞こうとすれば前を向いているように言われた。
仕方がないので前を向いていると左耳がふわりと暖かくなる。


「ま、正臣……?」

「もし入りそうになったら、俺がこうやって――」


ふっと息が吹かれる。
小さく悲鳴をあげそうになるのを堪えると正臣がクスクスと笑った。


「こうやって綿毛を吹いてやるからさ! いい案だろ?」

「た、確かにそうすれば入らないけど……!」


私の身が持たない!

そう思ったら、正臣がまた「照れるなんて」とかふざけだしたから弁慶の泣き所に蹴りを入れておきました。





あなたのおかげで、また嫌いなものが減っていく。





(正臣のばーか)

(俺のこと嫌いか?)

(別に。嫌いではないよ)


(嫌いを無くしてくれた人を嫌いになるなんてできないもん)
 

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