Rikkai

□移りゆく
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空は塗り潰したような水色だった。晴れているのか曇っているのかの判別すら困難だ。

『青かったよ』

海へ行ったと言う彼女は思い出をたった一言でしか表さなかった。それが何とも彼女らしかったから俺はその海を鮮明に思い描くことが出来たのだ。


「何してるの?」

声を掛けられて我に返った。振り返ると彼女がいた。


「空、見てた」

「、青いね」

「青いか?」


不自然なまでの水色を再び仰ぐ。きっと彼女が見た海はもっと青かったはずだ。


「仁王のことだよ」

彼女はそう言って俺の隣に腰を下ろした。青春だねえ、と年寄り臭い口調で呟いた彼女は好きな人のことでも考えてたのかい?とふにゃりと笑ってみせた。


「……そうじゃね、」

「え、うそ」


素直に肯定したら彼女はとてつもなく間の抜けた顔で俺を凝視したから、俺は苦笑して髪をくしゃくしゃと乱した。

彼女はまだ此方を見ている。


「……お前のことじゃよ」


さっきの仕返しとばかりに何処かで聞いたような言葉を返したら彼女の頬が色付いた。


「…赤いね」

「そうじゃな」


熱を持ったその頬に、俺はその日初めて触れた。


移りゆく



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エゴイズム/ピアス様より


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