Rikkai

□曇りガラスの恋
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雨の日が好きだ。ぱらりぱらりと零れ落ちてくる雫はまるで隠しきれずに溢れ出る俺の気持ちのようだと思う。曇ったバスの窓ガラスには消えかけの落書き、もう少ししたらまたこの熱気で元通り消えてしまうだろう。その文字の部分のガラス越しに彼女は笑った。


『やまないね』


彼女が書いたその文字から水滴が伝った。雨の日だけは同じバスに乗れる、たったそれだけの理由で俺は雨に恋をした。


『部活ないとつまらない?』

『ちょっと』


込み合ったバス内の内緒の会話。俺たちは雨が降る日だけこうして会話する。晴れ渡った日には俺はテニスコートを走り回って、彼女は同じ部活の男子と帰る。

二人はいつも一緒、青空の下で見るには眩しすぎて涙が出てしまうから。


『雨好き』


そう書いた。彼女はまた微笑んだ。今日、いま、たった15分のこの時だけは彼女の微笑みは俺のもの、それくらいなら許されるだろう。

この雨が止んだら彼女はあいつのものになってしまうんだから、せめて15分だけ。馬鹿馬鹿しい考えだけれど、この恋心を手放すつもりも毛頭無かった。


『わたしも』

『なんで?』

『会えるから』


それ、俺にってこと?
思わず口を開きかけて、慌ててつぐんだ。まさかそんな。だって彼女はあの男が好きなはずなのに。

彼女はそっと手を動かした。何を書くのだろうと見守っていたらその細い指は窓ガラスに曲線をいくつか描いた。11個の数字。俺はそれを目に焼き付けた。彼女はすぐにそれを手のひらで消してしまったけれど、俺はその数字たちをしっかりと記憶していた。心臓がうるさい。


「………」


彼女が濡れた手のひらを持て余す。俺はその手を取って、タオルで拭いてやった。


「電話する」


絞り出した声は柄にもなく震えていてかっこわるかったけれど、彼女は笑ってくれた。


バスが停まる。

俺は名残惜しさを堪えてバスを降りた。外からバスを眺めると、窓ガラスの水滴が彼女によって部分的に拭き取られて、今度は二つのカタカナを形成した。


『スキ』


アホ、俺の方が好きじゃよ。

とりあえず彼女がバスを降りるころに電話しようと思った。早く彼女にこの気持ちを伝えたい。



曇りガラスの恋

(これってさ、)
(両想いだったってこと?)
(だったら嬉しい、すごく嬉しい)





*****
エゴイズム/ピアス様より


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