Rikkai

□君の瞳の中
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私は、人と目を合わせることが苦手だ。

元々あまり外向的な性格ではないので、
クラスでもいわゆる“目立たない”“静かな”部類のグループに属していた。

ただ、別にハブられたりはしていないし、
少ないが友達と呼べる存在もいた。


でも、

小学校の時に受けた軽いイジメのおかげで、
やっぱり人の目を見るのは今でも苦手だ。

緊張して、
どうしても俯きがちになってしまう。

相手に不快感を与えるか与えないか、
…ギリギリの所だと思う。

我ながら、
話すと相手に不快感を与えかねない自分のことが、
あまり好きではなかった。





そんな私が、
今回の席替えで窓側の1番後ろという超良席になった。

周りに人が少ないから、
人と関わる機会が少ない、
と喜んでいたのだが、



問題は…この人。

隣の席の丸井ブン太君。



クラスでも…というか、
学校全体でも中心的な存在の彼に、
何故だかよくちょっかいを出されるようになった。

授業中でも休み時間中でも、
よく話しかけられる。

私が、あまり気の効いたことを返事出来なくても、
彼はお構いなしに話しかけてくる。

この前なんて、
「一緒に屋上行ってサボろうぜー?」
と誘われた。

私とじゃ、
楽しくお喋り、なんて、
出来ないのに。








席替えから1週間。

最近、自分のことをますます嫌いになった。

丸井君は相変わらず話しかけて来てくれるのに、
まだ私は相変わらず俯きがちで。

そのくせ、丸井君が女の子と話しているのを見ると胸がモヤモヤしていた。


―これが、ヤキモチ?

言葉のキャッチボールさえままならない私が?


こんなことを考えてる自分が、
すごくすごくワガママに思えて、

なんか、もぅ、本当に、嫌だった。




でも。

遠くから見る彼の笑顔はとても魅力的で、
あったかくて、

1度で良いから彼の笑顔を目の前で見てみたいと思ったのは、
ワガママではなく、本心、だった。







「―ん。」


「えっ?」



突然、丸井君から何かを手渡された。

よくよく見てみると、
それはいちごみるく味の飴。

―私の、好きな飴。




「ど、どうして…?」


「この前、お前が友達に好きって言ってたの聞いたから。」



私が紡ぐ数少ない言葉を、

丸井君は聞いていてくれた。



それはもう、


嬉しくて。


嬉しくて。




「あ、ありが…」

「人にお礼を言う時は、
ちゃんと目を合わせて言わなきゃダメだろぃ?」


そう言って、
いたずらっ子のように笑って私を覗き込む彼につられて、

私も思わず、
笑顔に、なった。







君の瞳の中





(初めて見る君の瞳の中には)
(とても嬉しそうに笑っている私がいた)






(うん、お前、笑ってる方が可愛いぜ)

(あ…また俯いちまった)




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