頂き物

□零
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物語の全てはここから始まった。



『零』



「ほれ、また一匹釣れた」

「流石、天邪狐だね!」

孤児之里を少し離れの川
澄んだ水には魚や虫が優雅に泳ぐ
偽人がふらついて危険だと教えを受けていたが、
二人は和尚の目を盗んで魚釣りに来ていた
行くなと言われると行きたくなる性分である空は
あまり行く気ではなかった入谷を無理に引っ張りながら連れてきた

「結構大量に釣れたね、天邪狐」

「こんなんワシの手に掛かれば朝飯前や」

「凄いね!僕には難しくて出来ないよ」

カッカッカと笑う空に入谷は微笑む。
次々に釣り上げられる魚に機嫌の良い空は夢中になりながら入谷に笑い掛ける

「こんなん誰でも出来る事や。あれやったら教えてやるわ」

「え?良いの?」

空が使用していた釣竿を入谷に頬利投げると慌てて受け取る
その竿に巻き付いた釣糸を外し、側で動いていたミミズを手にすると針を刺す

「天邪狐みたいに偽物の餌じゃ最初は無理そうだから
  実感が湧いてきたら改めて教えてもらうよ」

竿を振ると遠くまで釣糸が落ちる。それに気が付いた魚が
ミミズに興味を持ち、つつきあっているのを見図い
チャンスを狙うようにミミズを見詰めていた









夕暮れ時―

大量に釣り上げた魚を空がそこらの草で作成した籠に
投げ込むとよいしょっと籠を持上げる

「入谷、そろそろ里に戻らんと…」

「もうちょっと待ってよ;あと少しでまた釣れそうだから…」

どうやらこの短時間で魚釣りにはまったようで
空が帰り支度をしていても、声を掛けても釣りに集中していた

「それじゃぁその一匹釣ったら戻ろうか」

籠を置き、入谷の横に座ると横顔を見め
どこをどう見ても無邪気に釣りを楽しむ少年にしか見えない
しかし、嘘を得意とする空には横にいる少年が以前から怪しいと勘づいていた
今日はその本性を探ろうと入谷を連れ出して、里には被害が及ばないような
辺鄙な所に連れてきたがどうやら自分の勘は外れたようだ

「…入谷。」

「ん?なんだい?」

「ワシ、実はな……「何だガキじゃねぇか」」

空の声を遮る図太い男の声と共に背後の草むらからガサガサと男が現れる
一人だけではなく、二人、三人、四人と増え、五人の男が
入谷と空の周りを囲むように立ち塞がる

「あ、天邪狐…」

「わーっとる…」

「ちっ、金目のもんは持ってなさそうだな…
まぁ食料はあるんだ。これだけでも良しとするか」

おい、と男が声を掛けると一人の男が籠を奪う
釣ったばかりの魚が動いた衝撃で籠から落ち、その場で跳ねる

「それとそこのガキ…」

「ワシか?」

「そうだよ、良いからこっちに来い」

ニヤニヤといかにも何かを企んでいるのが見え見えで溜め息をつきそうになる。
何をしでかそうとしているのかが手にするように解る。
本当に偽り人なのだろうか…?
そんな偽り人をどう倒そうか、この場からどう切り抜こうか…
自分だけだったらともかく、入谷もいる…どうすれば良いだろう…

「何してやがる!早くしろ!」

「っ…」

刀を腰から引き抜くと空に向けて刃を向ける
糸目だった目が開眼し、少し驚いた目を一瞬だけするとキッと男達を睨み付ける

「気に入らねぇなぁ…ガキがそんな目で見てんじゃねぇ!」

「どんな顔しようとワシの勝手やろ」

「んだと!?」

「っ!天邪狐逃げて!僕がこの場をどうにかするから…!」

両手を広げ、空の目の前に立つ。
声が恐怖に震え、足もガタガタと震えているのが見て解る。

「けどお前震えて…」

「良いから!早くっ」

空をドンと押し出すと「早く走って」と背後から急かす。
振り向くと男に捕まれ、抵抗していた。
それを見た空は「助けを呼ぶからそれまで生きてろ」と叫ぶ
どんどん離れていく、振り向き際にみた恐怖に
ひきつった顔が目に焼き付いていた。
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