いつわりびと◆空◆

□傷ついた分だけ
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もし、人が傷ついた分だけ強くなれるのが、本当だとしたら・・・

一体彼はどれ位強くなったのだろうか・・・?



――傷ついた分だけ――



その日は突然やってきた、いつものあまり平凡とは言えない日常の中に。

朝起きると、隣に居る筈の空の姿は無かった。

いつもの事か・・・。

正確に言うとだいたい週に3,4回位の頻度で、朝空が居なかったりする。
まぁ、大抵がどっかで体を鍛えていたり、薬草採っていたりするから心配は無いのだが、今日はそうとは行かなかった。

あまりにも遅かった、いつもなら薬馬が起きて1時間程度で返ってきていたのに・・・



「空さん、遅いですね。」

「いつもならもう戻ってくる時間ですのに。」



ぽちや閨も心配そうな顔をしている。

空と共に旅をして約2ヶ月・・・こんな事は今までに無かった。

でも、空は何故突然居なくなったのか、それだけが分からなかった。
空は偽り人だが、そこら辺の偽り人とは違い仲間を見捨てるなんて真似はしない。
もっとも、仲間を救う為に仲間も騙す。なんて事はあるが・・・

帰って来られなくなっただけか・・?

川に流されたとか、野生の動物とか偽り人に襲われたとか、崖に落ちたとか?

最初と最後はともかく、真ん中はありえなくは無い。



「ちょっと探しに行って来る。」

「私も行きますわ。」

「ぽちもですー。」

「お前等はそこに居ろ、空が帰って来た時に誰も居なかったら困るだろ。」

「それでしたら一人でも・・・」

「ぽちは危険な目にあわせられない、でもぽち一人に留守番させるのも危険・・・
 だったら、二人で良いだろうが。」



二人をしぶしぶでも納得させ、薬馬は一人走った。

確かに三人で探した方が効率が良いし、別に探す人は薬馬じゃなくても良かった。

でも何となく、何となくだが自分じゃなくてはいけない気もしたし、自分なら絶対に空を探し出せるという確信もあった。


全て自分の直感を信じ、辿り着いたそこは切り立った崖で、そこから少し飛び出た所に一つの人影があった。

確認しなくても分かる。 空だ。


特に外傷などは見当たらなく誰かに襲われたでもないらしい。
ただ気になるのは、その背中が妙に寂しげだったという事だ。



「空?」



一回問いかければ十分だった、人影は振り返りその顔を明らかにした。

頬には涙が伝った痕、というより今も伝っており、目は泣き腫らし赤かった。



「お、お前、その目どうしたんだよ?」



心配そうに問いかける薬馬をよそに、空はああ、そんな事か。と軽く流した。

だが、明らかにそんな事ではない。

でも今までこんな空を見たことが無かったので、どう接して良いのか、なんと言葉を掛けて良いのか分からなかった。



「お前、どうし・・・」

「どうしたんや?薬馬?」



力無く笑う空を見て、薬馬はどうして自分がそうしたのか分からなかった。


薬馬は空を抱きしめていた。


空は一瞬だけ驚いた様に目を見開き、すぐに薬馬を突き飛ばした。
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