小説

□Hant my bee
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修兵と砕蜂は、流魂街の林を縫うように走っていた。

「なんで俺達が行かなくちゃいけないんスかぁ?」
「文句を言うな」
「だって、久しぶりのデートなのに…。それにいくら現場が近いからって、俺達が非番重なるなんて滅多に無いじゃないスか」
「それが死神の台詞か」

二人が流魂街でまったりと久々の非番を楽しんでいると、二匹の地獄蝶がひらりと舞い込んできて、流魂街の外れに出た虚を昇華せよとの命令が出されたのだった。そして、今に至る。

「砕蜂冷たい」
「今は任務中だ、隊長と呼べ」
「へーへー、わかりましたよ砕蜂隊長」

修兵の態度に砕蜂は不機嫌になるが、修兵の機嫌も悪かった。何しろ、地獄蝶が飛んでこなければ、修兵は甘味を口にした砕蜂の甘い唇を味わうことが出来ていたのだから。微妙な雰囲気のまま地獄蝶の情報と感じる霊圧を頼りに暫く走り続けると、魂が悲鳴を上げた虚が姿を表した。

「…隊長格ガ二人カ」

虚の霊圧は然程強くなく、砕蜂と修兵の高い霊圧を確認すると同時に逃げの体制をとった。二人は瞬時に虚に向かって刀を振りかざした。

─ガキィン!

3つの刀が交わる音が鳴り響き、砕蜂と修兵は目を見開いた。

「…私、か?」
「そ、砕蜂隊長が…!」

交わった刀の先にいるはずの虚は、虚ではなく砕蜂だった。つまり刀を交えているのは、修兵と砕蜂×2。3人は同時に刀を凪ぎ払うと、後ろに飛んで再び刀を構えた。

「これガ、霊圧ノ低イ私ガ今マデ生キ延ビテコレタ理由ダ」
「どういうことだ」

砕蜂がそう問い返すと、虚は二人に向かってとても砕蜂には見えない笑みを浮かべた。

「一番霊圧ノ高イ敵ノ姿ヲこぴースル、ソレガ私ノ能力ダ」
「…そいつは厄介な能力だな」

修兵がそう言って刀を握り直した瞬間、砕蜂の姿をした虚が砕蜂と同じ速さで修兵に斬りかかってきた。修兵は反射的に後ろに飛び退いたが、目では追い切れないような速さで飛んでくる虚の刀から避けきれる筈もなく、

─キィン!

もうひとつの影がその刀を凪ぎ払った。

「砕蜂隊長…」
「足手纏いにだけはなるなよ」
「…はい!」

舜歩で修兵の元まで跳んできた砕蜂の言葉は、共闘宣言。修兵は一瞬感じた不甲斐なさをその言葉で気合いに入れ換え、確りと頷いた。砕蜂の刀によって吹き飛ばされた虚は、ゆるりと立ち上がると砕蜂を睨み付けた。

「ソノ男カラ先ニ殺シテヤロウト思ッタノニ、邪魔シヤガッテ…!」
「いくら私の姿とはいえ、他の女をこの男に触れさせるわけにはいかないからな」

砕蜂がそう言った直後に向かってくる虚に、砕蜂も強く地面を蹴った。修兵の目には留まらぬほどの速さで二人は刀を祓い合う。しかしやはり霊圧の高い砕蜂が繰り出した蹴りを喰らうと、虚は近くの木に吹っ飛ばされた。木は真っ二つに折れ、周辺には煙が上がった。

「…ぅおぉおぉぉ……;」

修兵は冷や汗を垂らしながらその光景を見ていた。砕蜂はそんな修兵のもとへ戻ってくると、すぐに口を開いた。

「檜佐木、お前の風死であの虚を捕らえろ。私が雀蜂で止めを刺す」
「なっ…無理ッスよ!」
「あんな紛い物の私を捕まえられないようでは、…そのうち本物にも逃げられるかもしれないな」
「…わかりましたよ!捕まえたら絶っっ対離しませんからね!」

砕蜂がニヤリと挑発めいた台詞を口にすると、修兵はムッとしてまんまと挑発に乗った。二人が言い争っている間に、砕蜂の姿をした虚が折れた木の向こうから出てきた。砕蜂の攻撃を喰らって弱った体はスピードも落ちていた。それを見て修兵と砕蜂は斬魄刀を解放した。

「刈れ─風死」
「尽敵螫殺─雀蜂」

修兵は風死を虚目掛けて投げるが、スピードが落ちたと言っても目で追うのがやっとのその敵に風死の鎖はなかなか絡み付かない。

「檜佐木、敵の動きをよく読め!」
「わかってます、よっ!」

しかし右手で力一杯投げた片方の風死は敵の横をすり抜けていく。風死をかわして一直線に向かってくる虚を、修兵は左手に握ったもう一方の剣先で受け止める。

「オ前程度デハ私ヲ捕ラエルコトナド不可能ダ」
「わかんねぇさ」

虚の言葉に檜佐木はニヤリと笑いながら、虚の刀を受け止めている左腕の武器に手を掛けた。

パキ─…ン

「ナニ…!」

いつも腕に巻いてある黒いバンドを外すと、それは勢いよく炸裂した。その瞬間に修兵は後ろへ飛び退き、右手に絡んでいた鎖を手前に引いた。すると、先程投げたもう一方の剣先が戻ってきて、突然の爆発で動けずにいた虚の体に鎖が絡み付いた。

「クッ!」
「終わりだ」

絡み付いた鎖から逃げ出そうともがく虚は、砕蜂の目にも留まらぬ二回の即撃により、蜂紋華を咲かせて昇華した。

「やりましたね」
「あぁ。……何のつもりだ」

砕蜂が刀を鞘に納めた瞬間、修兵は舜歩で砕蜂の背後をとって風死の鎖を弛く巻き付けた。じゃらじゃらと言う音に顔をしかめながら、砕蜂は顔をゆっくり後ろに向けて疑問を投げ掛けた。修兵はしゃがむと砕蜂を上目使いで見つめて口を開いた。

「オレ、言いましたよね?捕まえたら絶っっ対離さない、って」
「…捕まえ方が違うだろう」
「あーそっか、そうですね」

修兵は相変わらす不機嫌そうな砕蜂を苦笑いで鎖から解放すると、刀を鞘に納めた。そして、砕蜂の小さな体をその太い腕で引き寄せ、大きな胸の中に包み込んだ。

「捕まえた」

満面の笑みで腕の中に閉じ込めた彼女は、満足げに微笑んでいた。


Hant my bee


End.
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