捧げ物

□ココロヒトカケ
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今日は朝早くから雪が降っている

止む気配もなく、そのまましんしん降り続けてもう昼過ぎだ

真っ白に染まってしまった瀞霊廷を、ただうっとりと眺めていた


「っあー寒ぃ」


はぁ、とついたため息がやけに白くて
急に一肌が恋しくなってしまった

いつも隣にいてくれるあの温かさが、ひどく恋しい


「たいちょ、忙しいよな」


ふっと目を伏せて、もう一度ため息が零れる

仕事に戻るか、と振り向いた時だった




「たい、ちょ・・・」

「なんだ、その顔」


そこには頭や肩に雪を積もらせて、小刻みにかたかたと震える隊長が立っていた

それでも俺の顔を見た途端、うっすらと笑みを浮かべて抱きついてきた

欲しかったその人の温もりをしっかりと抱き留めて
きついくらいにぎゅうと抱き締める


「隊長つめたい」


見下ろす先の頭に積もった雪を払ってやる

こんなに積もるだなんて
忙しいのにわざわざ俺のためにここへ足を運んでくれたんだろうか

そう思うと、じわりと胸の奥が熱くなる


「・・・どうした?檜佐木」

「・・・なんでもねえ」


かっと目頭が熱くなったから、ごまかすために頭をがしがし撫でてやった

すると無邪気に目をつむって気持ちよさそうにするもんだから
もう可愛くて可愛くて、口元が緩む





「隊長」

「なんだ」

「どうして来てくれたんすか、忙しかったでしょ?」

「忙しかった」

「じゃ、なんでそこまでして・・・」

「お前、まだ聞く気なのか?」


え・・・?
隊長の顔をみると、どこか照れたような拗ねてしまったような

幼い子どものような顔をして、俺をむすっと見上げていた

なんか、怒らせるようなこと言ったか


「え、ごめ、ちょ、俺なに言った?」

「知らん、自分の胸にでも聞いておけ」

「いや、その、わかんないっす、俺、馬鹿だから」

「・・・ふ、ほんとに莫迦者だなお前は」


一方的に怒ってしまうものだから1人でおろおろと目を泳がせていると

くすっとひとつ小さく笑って、莫迦者と言われた


「ここまでしても、お前に、会いたかった、から」

「え・・・」


そう言い捨てて、俺を置いて歩いていこうとする

ちらっと振り返った時、確かに頬がまっ赤に染まっていたのが見えた


「あ・・・あー寒い!早く部屋に戻るぞ、莫迦檜佐木!」

「え、ちょっと待って隊長!なんですか今の可愛いのは!」

「うるさいな!鈍感な奴は凍死でもなんでもしてしまえ!」

「うはっ!照れちゃって!」


その後俺の顔面に隊長必殺飛び膝蹴りがヒットしたのは言うまでもない




「会いに来てよかった」


彼女の呟きは誰にも聞こえることなく
ただ静かに雪の降る、寒空へと吸い込まれていった



(不器用なりの愛情を)
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