捧げ物

□ミッドナイト・ラブコール
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「檜佐木!あがったぞ」

「はいはい、ってあんた髪の毛が」

次々にぽたぽた滴り落ちる雫を見ていられなくて
せっせと駆け寄ってその小さな頭をタオルで包んでやった。
わしわし、と加減を忘れずにタオルごしに撫でてやると、
きゅっと目をつむり、気持ちよさそうに表情を柔らめた。


「いっつも言ってるでしょう、ちゃんと乾かしてから来て下さい、ほら床びしょびしょじゃねえか」

「・・・いや、なんというか」

「なんすか、どうせ面倒くさかったとか言うんでしょう?」

「ち、違う!私は、その、」


今にも言葉がこぼれて落ちそうだ。
目を落ち着きなく泳がせて、もじもじ指を絡めている。
うちの嫁は、こんなに女の子だっただろうか。


「私は、その?」

「き、貴様に頭をふいてもらうのが、す、す、好き、だから・・・だな、その、」

「もういい」


照れ隠しに言葉を足そうと探すその姿が愛らしすぎて、たまらず抱き締めた。
以前まではすぐに飛んできたグーパンチも近頃はなく
変わりに小さくか細い腕が、まるで応えてくれているかのように抱き締めてくれる。
ああ本当に、この人にはやられるよ。


「い、いつまでしているのだ、莫迦者!」

「っぶ」


まあ、やりすぎには注意なんだけど。



















「はあ・・・少し、蒸し暑くないか」

「確かに、風呂はいったとこなのにまた汗かいちゃいますね」


確かに今夜は暑い、俺なんてたまらず上を脱ぎ捨ててしまったほどだ。
体つきには自分でもそれほどに自信はあるけど、頬に湿布を貼ってるせいかその格好のつかないこと。
無情にも外では虫たちがなんとも美しい音色を奏でている、急に泣きたくなった。


「・・・良いな、男は」

「なにがですか」

「人目を気にせず暑ければぽいぽい脱げるではないか」

「え?隊長も脱げばいいじゃないです・・・うわ、ちょ!危ない!」

「貴様それは、せくはらと言うやつだぞ」


なかなか加減なしにぶん投げてきた座布団をかろうじで避けた。
見れば頬をかあっと染めて、どことなく恥ずかしそうにしている。
確かに、女性に脱げだなんてなんてデリカシーのねえ男なんだ俺は。


「すんません」

「ふん、下心丸見えだな」


一瞥し、途端暑さからか無意識に胸元を広げた。
なんと豪快な行動に、ばっと目を背ける。
さっきまでセクハラ発言をしていたというのに、実際起こればこうだ。
ちらちらとその胸元へ視線を向けてみると、普段は見せない肌が露わになっていて
その白い糸のように繊細な美しい肌に、思わずぼんやりと見惚れてしまった。
その汗ばんだ艶やかなつやも、妙に色っぽく見えてしまう。


「・・・綺麗だ」


何時の間にか発していた言葉に驚いた彼女を見てまた驚いた。
本当に無意識のうちこぼれ落ちていた、だからこれは素直に思ったこと。
しばらくなんとも言えぬ沈黙が漂って、ふん、と顔を背け彼女は言った。


「・・・貴様の方が綺麗だ」

「え?」

「そのたくましい体が、美しい」

「いや、そんな」

「同じ男でも、大前田とはここまで違うものなのだな」


そう笑いながら、俺の方へと少し遠慮がちにすり寄ってくる。
俺はその肩を抱き寄せて、こてん、と頭を乗せた。
すると優しく撫でてくれる手のひらに安心して、すっと瞼をおろした。


「ずっと、愛しているぞ」


耳元で呟いた彼女の切れ長の瞳が、ちいさく揺れた。







(美しさ故、儚く消える)
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