キリリク文

□恋人たちのセレナーデ〜新米カップルの試練〜
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―教室―

カレンは机に突っ伏していた。クラスメートが心配して声を掛けてくるのに「大丈夫」と返しながらも心の中は全然大丈夫ではない。

(何とかライにお弁当を渡せたけど…まさか見られてたなんてっ!!さっきは逃げるみたいになっちゃったけど…ライに会ったらどんな顔すればいいのよ…)

「カレン、大丈夫?」
「シャーリー…えぇ、大丈夫よ」

そこにシャーリーがクラスメート達と同じように声をかけてきたのでカレンも同じような答えを繰り返す。

「なら良いけど…あっ、ねぇねぇ、カレン」

どうやらシャーリーは他にも用事があるらしい、先ほどからの自問も堂々巡りだったので頭を切り替えるためにカレンもそれにのることにした。

「何かしら?」
「昨日ってブルームーンだったでしょ?カレンはライに告白したの?」

ガンッ!

しかしシャーリーの一言にカレンは思いっきり机に頭をぶつけてしまう。周りのクラスメートがその音にびっくりしたのか、ギョッとした目をカレンに向けていた。

「ちょっ、ちょっとカレン!?」
「い、いきなり変なことを言わないでよ!」

ガバッと顔を上げてシャーリーを睨むカレンは冷静さを失っているらしい、完全に猫を被るのを彼女は忘れていた。

「え〜、変じゃないよ!だってカレンがライの事好きなのってバレバレだよ?」
「えっ!?…そう、なの?」
「うん」
「っ〜〜〜!」

カレンはバレていた恥ずかしさから再び机に突っ伏してしまう。彼女は完璧に隠しきっていたつもりだったし、誰かにバレるとしてもそれはこの手の話題に異様に鼻が効くミレイぐらいしかいないだろうと思っていたのだ。

「それでどうだったの?」

興味津々といった様子のシャーリーにカレンはどうやって誤魔化すか考えるが、その答えは案外あっさりと導き出される。

「そういうシャーリーはどうなのよ?」
「へっ?」
「ルルーシュに告白したの?」
「ル、ルル!?いや、その…えーっと」

ルルーシュの名前を出した途端、慌てふためきだしたシャーリーにカレンは上手くいったと小さくガッツポーズをした。

(よし、何とか誤魔化せたわね…まぁ、どっちにしてもこれから大変だけど)

まず確実にシャーリーの愚痴を聴かされる事になるだろうが、カレンからしたらライとの事を詮索されるよりはましである。

(はぁ、これがシャーリーだから良かったけど…会長だったら、絶対逃がしてくれないでしょうね…)

カレンは一つため息をつくとシャーリーの話を聴く体勢に入った。
彼女は知らない、その警戒すべき人物が今まさに恋人に接触していることなど…


―廊下―


その頃ライは廊下でリヴァルに出会い、一緒に教室に向かっていた。話す内容はやはり昨日の事…とはいってもほとんどが見事に玉砕したリヴァルの愚痴である。

「それでさぁ〜、結局会長来てくれなかったんだよ」
「それは残念だったな、リヴァル」
「そういえばさ、ライはどうだったんだ?」
「…僕?」
「そうそう!お前ってモテるから一杯呼び出しが来たんだろ?」

リヴァルに言われて思い返してみるが、ライの下に来た手紙はカレンからの物1つだけ。
実は彼女から手紙が来て無意識に浮かれていたライがさっさと礼拝堂に行ってしまったため、他の生徒は諦めざるを得なかったというのが真相なのだがライがそんなことに気付く筈もない。

「…そんなことはなかったが?」
「嘘っ!?マジかよ…」
「ああ…僕を呼び出したのは1人だけ…」

言いかけてライは慌てて口を閉じる。しかしリヴァルには聞こえていたらしく彼は目を輝かせてライに詰め寄ってきた。

「お、やっぱり呼び出しがあったのか!なぁなぁ、誰だよ?」
「だ、誰だって良いだろう、別に…」

自らの失言に心の中で毒づきながらもライは皮肉にもカレンと全く同じタイミングでどう誤魔化そうか考える。
だがカレンとは違い、ライには背後から新たな影が忍び寄っていた。

「なぁ〜に言ってるの!『幻の美形』ライのお相手を気にする子はごまんといるわよ〜!」
「のわっ、会長!?」
「ミレイさん、いつの間に!?」
「それこそどうでも良いじゃない。それよりライ〜、お姉さんに話してごらんなさいな」

背後からライに抱きつく形で襲撃してきたミレイがズイッと顔を近付けてくる。リヴァルがすごく羨ましそうな目でライを見ているが、彼はミレイという最大の強敵への対策を頭の中で練っていたためリヴァルのその視線にも背中に当たっている柔らかい感触にも全く気付いていなかった。

「い、いや、その…(カレンだと言えば解放されるだろうけど…ありえない、絶対に取り返しがつかなくなる…)」
「ああ、ライッ!あなたはいつから隠し事をするような子になってしまったの!?ミレイさんは悲しいわ…」

ライから離れて悲しそうに口元を押さえるミレイだが、それは妙に芝居がかっていてライは思わず苦笑する。それで通用していないとわかったのだろう、ミレイは不満げな視線をライに送った。

「むむ、情に訴える作戦でもダメか…なら次は…」
「もう良いじゃないですか、会長」

そこにルルーシュがミレイを制止する声と共に現れる。

「あら、ルルーシュ、今日はサボりじゃないのね」
「俺だって真面目に来ます。それより人のプライバシーを詮索するのはやめた方がいいと思いますよ」
「何だよルルーシュ〜お前は知りたくないわけ?」
「悪いが答えはイエスだ、リヴァル。ライが誰と付き合っていようと俺達の関係に変化が訪れる訳ではないからな」

ルルーシュの淡々とした様子にミレイは心の中で候補の1人であるナナリーの可能性を消した。

(ルルーシュってわかりやすいから、もしライのお相手がナナリーだったらまずライを睨み付けるぐらいはしてそうだしね〜…っていうことは筆頭候補はやっぱり…♪)

「会長…いつまでついてくる気ですか?」
「あら?」

4人はいつの間にか教室の前まで来ていたようでルルーシュが呆れたような視線をミレイに向ける。

「何よ〜、これからが本番なのに―!」
「はいはい…リヴァル、ライ行くぞ」
「それじゃあ、会長っ!また後で―!」
「じゃあ、ミレイさん…僕はこれで」

ルルーシュ、リヴァル、ライの3人は教室に入っていった。

「もうっ!!私は諦めないわよっ〜〜〜!…というわけでこっそりと…」

1人取り残されたミレイはどうしても尻尾ぐらいは掴みたくてドアの陰から教室の中を覗く。

「いたいた…んん?」

ライはカレンの隣に座っていたのだが、どうも様子がおかしい。ライとカレンが極力目を合わさないようにしているのだ。
…心なしか二人とも頬が赤い。

「来てるわ…ミレイさんのアンテナにはビンビン来てるわよぉ〜〜…」

周りにもそうそう気付かれない微妙な変化。しかし…この人にわからないはずはなかった。

「あれで隠してるつもりなんて…可愛いんだから、もう!」

ミレイはドアから離れ、自分の教室に鼻歌を歌いながら帰っていく。

「今日の放課後が楽しみだわ〜〜〜っ!」

災難が自分達のすぐそばまで来ている事に教室の新米カップルは気付いていなかった…
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