季節の小説

□幻の美形の恐怖体験
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―そして現在にいたる。
「ああ…何でこんなことしなきゃいけないのよぉ…」
カレンの声にいつもの勢いはなく、そんな彼女を僕は素直に可愛いと思った。
「な、何よ…」
「えっ?」
「今…笑ってた」
「あー…」
僕が言葉に詰まっていると、カレンは弱々しくだが睨み付けてきた。
「わ、私がこういうのが苦手なのがそんなに可笑しいわけ…!?」
「違う違う…」
「じゃあ何よ…」
「…可愛いなあ、って」
「っ!?」
正直に言ったらカレンは顔を真っ赤にしていた。
「な、何言い出すのよっ!?」
「僕は正直に言っただけだけど…」
「〜〜〜〜ッ!!もうっ!いいから行くわよ!」
「うわっ!?カレン、引っ張らないで…」
「黙ってついてくるっ!」
どうやら恥ずかしさが恐怖心に打ち勝ったらしくカレンは僕の手を掴むとどんどん先に進んでいく。
(結果オーライかな?)
カレンが怖くなくなったのならそれが一番だ、と僕は大人しく手を引かれるのだった。


―ここでルールを説明しておこう。
校舎入口から教室に向かい、往復のタイムを競う。
ちなみに不正防止に教室にはビデオカメラがあり、そこに自分たちを写していく。
そして来たことを証明するために、あらかじめ渡された色の違うカードを置いていく(カレンは赤、僕は青だ)。
ちなみに僕たちの順番は最後で、他のメンバーは既に集合場所の生徒会室に行っている。
「…って僕は一体誰に説明してるんだ…?」
「さっきから何ブツブツ言ってるのよ」
「いや、何でもないよ」
「なら、いいけど…ああ、もう…また怖くなってきた…いやいや、私は日本人紅月カレン…黒の騎士団のエースがこんなことで…」
暗示をかけているようにしか見えないカレンの様子に僕は悪戯心が湧いてきた。
(ちょっとぐらい…いいよな)
僕は懐中電灯のスイッチをカレンにわからないように切ったり、入れたりした。
「っ!?ち、ちょっとライッ!…何、どうしたの…」
「い、いや急に懐中電灯が…」
「で、電池切れ…?」
「まさか…そうならないように、スタート前に電池は交換したはず…」
「じ、じゃあなんなのよぉ…!」
半分涙目のカレンを見た僕は、さらに悪戯をしたくなっていた。
―この時、僕の頭の中から当初の目的、『カレンを守る』という思いは消えていた―
―だから…きっとこの後起きたことは…天罰なんだ……。
僕は頃合いを見計らって、懐中電灯のスイッチを切った。
「あれっ!?つ、つかない!」
「えぇ!?」
僕の言葉にカレンは思わず、手を離してしまう。
僕はカレンから少しだけ離れると、安心させるように言った。
「大丈夫だよ、僕がそばにいるから。だから、カレン力を緩めてくれないか?
さすがにそんなに強く腕を掴まれたら痛いんだが…」
「ラ、ライ…何言ってるの…?私、何もしてないよ…」
「えっ?カレン?ち、ちょっと待ってくれ…今僕の腕を掴んでいるのは君だろう…?」
無論、僕は腕を掴まれてなどいない。
だが、カレンの恐怖心を煽るには充分だった。
「や、やだ…冗談はやめてよ…」
「き、君こそ冗談は…うわっ!?」
「ライッ!?」
「な、何だ、やめろ!?…カ、カレンッ!ぐっ…!」
ガシャ
僕は懐中電灯を廊下に落とすと、物陰に隠れた。
「ラ、ライ…?ねぇ…ライ、ライってば!」
急に僕の声が聴こえなくなったためか、カレンは何度も僕の名前を呼ぶ。
「う、嘘…冗談はやめてったら…どこかに居るんでしょ?」
カレンの声に応えるものはない。僕はカレンのそんな様子を眺めていた。
(そろそろ…いいか?)
僕は立ち上がる、その時―一瞬目眩がした。
「あれっ?疲れてるのか…?」
すぐに治まったので、気を取り直して僕がカレンのそばに行こうとした時、カレンのすすり泣きが聞こえた。
「やだよぉ…!あたしを独りにしないで…ライ…!」
「っ!!(僕は…何をしてるんだ!?カレンを泣かせるなんて…バカ野郎っ!!)」
僕は数分前の自分を殴り付けたくなった。
カレンを守るなんて言っておいて、僕は逆の事をしたのだ。
「カレンッ!」
「あ…」
僕はカレンに駆け寄って彼女を抱き締める。
「すまない…カレン、本当にすまない…!」
「ライ…」
カレンが僕の背中に手を回してくる。
僕たちはしばらくの間、そうして抱き締め合っていた……。


―教室―
「やっと着いたな」
「うん…」
教室の扉の横にはビデオカメラがある。
「これに映ればいいんだな…」
僕とカレンはビデオカメラを起動し、並んで映る。
「ライ」
「んっ?どうしたって、へっ?」
頬に柔らかい感触。
カレンにキスされたのだと気付き、慌てて離れる。
「カ、カレン!?」
「ふふっ、さっきあたしを怖がらせたお返しよ」
「お返しになってないだろう」
僕は苦笑しながら教室に入る。
「カードを置いてくるよ。貸してくれ」
「じゃあはい、これ」
「ああ(…んっ?このカード…こんなに赤かったか…?)」
カレンから赤いカードを受け取ると、僕は一抹の疑問を抱えながら机に向かう。
「こ…だ…………ブ…の……は…」
「えっ?」
カレンが何か言ったような気がして、僕は振り返った。
「どうしたの?」
「いや…(気のせいか…?)」
僕は首を傾げながらもカードを机に置く。
「よし…じゃあ戻るか、カレン…って、あれ?」
僕が振り返るとカレンはそこにいなかった。
「置いてかれたか…」
こっちがお返しか、と僕は笑いながら、生徒会室に向かった。
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