長編 蒼と紅の軌跡

□TURN 05 偽りの世界
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―数日後―


「ふうっ…はあっ!!」

ライは久しぶりに剣を握っていた。しかしどうも思うように剣を振れない。

「やっぱり、少し鈍っているか…!」

ライは過去の戦では剣と刀の二刀流を基本スタイルとしていた。斬るよりも叩く、突くの色合いが強い剣で骨や鎧を砕き、刀で斬る。
ギアスは基本的に危機に陥った時以外使わなかった。ギアスに頼って腕を鈍らせたくはなかったから。

「はぁ…はぁ…」

なのに今は片手剣を振るだけで、息が切れてしまう。

「ライ、休憩した方がいいわよ?はい、タオルとドリンク」

そこに筋トレをしていたのだろう、カレンがタンクトップという出で立ちでやって来た。

「んっ…すまない」

タオルで汗を拭きながら、ライはその場に座り込む。

「実戦の勘は取り戻せそう?」
「いや、まだまだだよ。やっぱり今まで剣の鍛錬をしなかったのは失敗だった」

黒の騎士団の性質上、刀はいくらでも入手や鍛錬の機会があったし、藤堂や四聖剣といった相手にも恵まれていたため、ライは刀の方を優先させていた。だがライのスタイルが元々二刀流であるため、どうしても刀一本では違和感が出てしまう。

「やっと手に入った剣だから、壊すわけにはいかないし…かといって、いざというときのためにも剣術の腕は磨いておきたい…ジレンマだな」
「無理だけはしないでよ?倒れられたらそれこそ意味ないんだから」
「そうだな、これから総領事と会合もあるし、シャワーでも浴びてくるよ」

ライは立ち上がると、カレンに側の木にかけていた自分の制服を羽織らせた。

「ライ?」
「……あんまり、そういう格好をして歩き回らないでくれないか?」
「へっ!?」
「なんというか…胸がモヤモヤするんだ。だから…って僕は何を言ってるんだろうな?」

ライは自分の感情に戸惑うように苦笑すると、その場から立ち去る。

「……嘘、もしかして…」

その場にはライの初めての言葉に同じく戸惑うカレンだけが残されたのだった…


tttt


数十分後、ライはC.C.と共に総領事高亥、そして武官である黎 星刻と会談を行っていた。高亥の言葉を聞き流しながら、ライは星刻の方のみを注視している。

(黎 星刻…麒麟児と呼ばれる中華連邦の武官。だけどわかる…ただの武官で終わるような器じゃない…全く…高亥だけならもう少し楽に事を運べたんだけど…)

星刻の方もライを興味深そうに見つめていた。

「ブリタニアからの引渡し交渉は遅滞させています。一週間程度はもつかと」

高亥の言葉に我に返ったライは星刻に意識を向け続けながらも、言葉を返すために目線を逸らす。

「わかりました。ゼロには僕から伝えておきましょう。それと…」

しかしライの言葉は最後まで続かなかった。

「ちょっとC.C.!考えたら、あなたがバニーやった方が早かったんじゃないの!?」

バスタオル一枚というさっきの比ではない格好をしたカレンが部屋に飛び込んで来たから。

「なっ、なんて格好をしてるんだ君は!?」

ライが思わず立ち上がりながら言うと、カレンも自分の格好を思い出し、羞恥に顔が真っ赤に染まる。

「あ、いや、これは…」
「ゼ、ゼロは女…?」

何を勘違いしたか、高亥がとんでもなく思い違いの発言をしたのでライは頭が痛くなってきた。

「そうだ」
「「違います!!」」

挙句C.C.がそれを肯定するという暴挙に及んだため、ライとカレンはそれを否定する。

「ばらすのが速すぎる。遊び心のない奴らだ」
「ゼロで遊ばないで!」
「それは同感だ、だが…まず君は自分の格好を何とかしろ!」
「えっ?」
「見えてるぞ」
「〜〜〜〜〜っ!?」

C.C.の一言でバスタオルがはだけていることにようやく気付いたカレンは慌てて衝立の裏に隠れた。

「初めまして、紅月カレンさん…紅蓮弐式のパイロット、ですよね?」

そんな慌ただしい雰囲気は、星刻の言葉によって霧散する。

「えっ、どうして…」
「興味があるんです、貴女と…そして貴方にもね、皇ライさん」

カレンを庇う位置に立ちながら、ライは戦場での闘気を漂わせ目の前の男を睨み付けた。

「あなた方黒の騎士団の双璧に興味を持たない武人など居ませんよ(いい目だ…正に誰かを率いる…王の器の持ち主)」
「あなたにそう言われるとは光栄です、黎 星刻さん(やはり、この男ただの武官じゃない…!どうする、脅威にならない内にギアスをかけるべきか…?)」
「クシュンッ…」

星刻にギアスをかけるか迷っていたライは、後ろから聞こえてきた小さなくしゃみに思考を打ち切る。
「すいませんが彼女を着替えさせたいので、これで失礼します。C.C.、後は頼む」
「えっ、ちょっ、ライ!?」

C.C.の返答もカレンの戸惑いの声も聞かず、ライはカレンの腕を掴むと引きずるようにその場を後にした。


tttt


カレンを自分にあてがわれた部屋に押し込んだライはドアを閉めて廊下に立つ。

「とりあえず着替えてくれ。話も出来ないし、そのままじゃ風邪を引いてしまう」
「あ、うん…」

部屋の中からクローゼットを開ける音と衣擦れの音が聞こえてきた。ライは音を気にしないようにしながら、なんでこんな状況になったんだ、と軽くため息をつく。

「あの…ごめんね?」

ため息が聞こえたのか、カレンの謝罪の声は弱々しい。

「別に怒ってはいないよ。ただ、もう少し落ち着いて行動してくれると助かる」

事実ライは怒っているわけではなく、ちょっと呆れているだけ。

「さっき、あんな格好をして歩き回らないでくれって言ったのに…もっととんでもない格好だったからね、さすがに驚いた」
「だ、だってぇ…あの作戦、バニーやるの私じゃなくても良かったんじゃ、って思ったら、いてもたってもいられなかったし…」
「何を言ってるんだ、あれは君じゃなければダメだったよ」
「えっ?」

ライの思わぬ発言にカレンは目を丸くする。扉越しからとはいえライにも十分にその雰囲気は伝わってきた。

「そもそもルルーシュと接触するのは僕の役目だった。だからこそ、僕のサポートには一番相性がいい君が選ばれた、それだけのことだよ」
「本当に…?」

着替え終わったカレンが部屋から出てライに問いかける。

「ああ、本当だ。僕が安心して背中を任せられる君だからこそ、あの役目を担当したんだ」

実際はC.C.が『こういうのはあいつの担当だろう』と言ってライの知らないうちに決めてしまったのだが、ライはそれを正直に伝えるつもりは毛頭ない。
時には知らなくていいこともある。

「そっか、私にしか出来なかったんだ…」

そう、こうして安心したように笑うカレンの笑顔を曇らせるなど、ライに出来るはずはないのだ。

「紅月、戦闘隊長、大変だ、中佐達が!」

そこに血相を変えた卜部がやって来て、ライとカレンの表情が引き締まる。

「ギルフォードが動いたんですね?」

まるで全てわかっているかの如くそう呟いたライに卜部とカレンは驚きを露にした。

「あ、ああ…とにかく来てくれ、テレビでギルフォードが声明を出してる」
「わかりました」


tttt


「聞こえるか、ゼロよ。私はコーネリア・リ・ブリタニア皇女が騎士、ギルバート・G・P・ギルフォードである。明日15時より国家反逆罪を犯した特1級犯罪者、256名の処刑を行う。ゼロよ!貴様が部下の命を惜しむなら、この私と正々堂々と勝負をせよ!」


「やられたな」
「くっ…中佐!」
「どうするのよ、ゼロはまだ…」

C.C.、卜部、カレンが口々に言うなか、ライは黙って画面を眺めていた。

「…C.C.、卜部さん」

口を開いたライに視線が集中する。

「外に出ます、ここは頼めますか?」
「外に?」

訝しげに尋ねる卜部を余所に、C.C.はその場に名前が出なかった少女について尋ねた。

「カレンはどうするつもりだ?」
「一緒に連れていく。話したいこともあるしな」
「えっ!?」

カレンからすれば寝耳に水の話だ、当然どういうことか聞こうとするが…

「わかった、へまはするなよ?」

C.C.によってそれは遮られてしまう。

「わかっている、行こう、カレン」
「えっ、ちょっと待ってよ!?」

わけもわからずカレンはライを追って部屋から出ていった。
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