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□甘い悪戯、甘い印
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『甘い悪戯、甘い印』
カレンは困惑を隠せないでいた。
『ああいう悪戯がありなら…僕も存分に悪戯させてもらおうかな?』
先ほど彼女が悪戯と称して行なったキス…それを受けてTrick or treatと一緒に返されたライの言葉が何度も頭の中に木霊する。
「っ…!!」
カレンとてライの言う悪戯がどういう意味を持っているのかはわかっていた。それを心のどこかで待ち望む自分がいることだって、十二分に理解している。
「…こんなの悪戯にならないんじゃなかったの?」
しかしそれを素直に認められるほど、カレンは羞恥心を捨てた覚えはない。だからつい、そんな憎まれ口を叩いてしまう。
「それは主観の相違というやつだ。さっきのキスだって君からすれば悪戯だったんだろう?」
「それは…そうだけど」
むろんライはそんなカレンの複雑な乙女心を見抜いているわけで。だが、彼もここまで来て退けるほど出来た人間であるつもりはなかった。
「じゃあこれは僕にとって悪戯だ。まぁ…君が期待してるなら、悪戯とは言えないかもしれないけど」
「なっ!?き、期待なんか…!」
「だったら…」
「ひゃんっ!?」
ライは先ほど自身がカレンに羽織らせたマントの下に手を入れ、ツー…と彼女の背中を撫でる。可愛らしい悲鳴をあげたカレンの頬をもう片方の手で触れながら、彼女を素直にさせるため言葉を紡ぎ始めた。
「なんで君は僕にされるがままになってるんだ?君がその気になれば僕を振り払えるはずだ…なのにどうして?」
「それ、はっ…」
「君はどこかで期待してる…僕の言う悪戯の意味を理解した上で…違うか?」
「っ…」
カレンは気付いた…ライが全てを理解しながらこんなことを言っているという事…そして、彼が自分に何を言わせたいのかも。
「…わない」
「んっ?」
「違わ、ない…私は…確かに…どこか期待してる…」
ライの服を握りながらカレンはポツポツと呟く。ライがそれを聞いて破顔しているのを気配で察しながらも、言葉は止まらない、止まって…くれない。
「…期待って、何にかな?」
「っ…こ、これから…ライと…する事…」
ライは微笑みながら、カレンに決定的な一言を言わせようとする。既にいっぱいいっぱいな彼女の心境を把握しておきながら、自分から歩み寄ろうとはしない。
「い、意地悪しないでよっ…もう…これ以上私からは言えないっ…!」
「…わかった。なら僕の口からはっきり言おう」
しかしこれ以上はさすがに酷だと判断したライはカレンを強く抱き締め、あっさりとその言葉を口にした。
「カレン…僕は君を抱きたい…君の全てを奪ってしまいたい」
「あっ…ううっ…」
ライの手がカレンの腰を撫でていく。それだけで身体が熱くなるのを感じながらも、まるで脳内から麻薬が出ているようにカレンの理性は塗り潰されていって…
「いい、よ…ライ…私を、抱いて…全部あげるから…私の、全部…」
そう答えたカレンの目を見て彼女のスイッチが入った事を確信しながら、ライはそっと口付けを交わすのだった…