長編 蒼と紅の軌跡

□TURN 01 惨劇の後に
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世界は彼等にあまりにも残酷だった。

「日本人は虐殺です!」

狂った力は少女の心を蹂躙し、少女を殺戮者へと変える。

「ライが命じる!ユーフェミア、君は誰も……ぐっ!?」

「邪魔しないで!日本人は殺さないといけないんです!」

「ダメだ、君は……!」

唯一止める可能性も潰え、誰も止められなくなった惨劇。

『黒の騎士団総員に告げる!ユーフェミアは敵となった、行政特区日本は我々を誘い出すための卑劣な罠だったのだ!
そしてユーフェミアを止めようとしたライがその凶弾にかかった!!今現在も彼は会場内にいる!
黒の騎士団のナイトメア部隊は式典会場に突入!ブリタニア軍を殲滅し、日本人を、戦闘隊長を救い出すのだ!急げ!
そして、ブリタニア帝国第三皇女ユーフェミアを……見つけだして殺せっ!!』

共に歩めたはずだった彼等の道は再び違え……

「許さない、よくも、よくもライをっ……殺す、あんただけはこの手で……ユーフェミアァァァァッ!!」

「ユフィ!どこにいるんだ!?ユフィーー!」

そして終局の引き金は……引かれた。

「さようなら、ユフィ。たぶん、初恋だった……」

白き騎士は憎悪と怒りの色に、黒き王は孤独の色に染まっていく。

そして、紅の少女と蒼の少年が染まった色は――

『コードギアスLOSTCOLORS―蒼と紅の軌跡』


『TURN 01 惨劇の後に』

「ライッ!」

「カ、レ……ン?」

自分を呼ぶ声に深い闇をさまよっていたライが眼を覚ますと、そこには涙を流して彼の手を握り締めるカレンがいた。

どうして泣いているんだろうか、疑問に感じながらもライは無意識にその涙を拭おうと起き上がろうとするが、彼が目を覚ました事実をやっと自分の中で消化できたらしいカレンに慌てて押し留められる。

「起きちゃダメッ!傷口がまた開いちゃう!」

「傷口……っ!?」

カレンの言葉を浸透させるように繰り返したライは腹部に焼けつくような痛みを感じ、それと同時に全てを思い出した。

自分は行政特区日本記念式典の場で撃たれたことを。

そして自分がその時、誰を止めようとしていたかも。

「カレン……行政特区は、ユーフェミアはどうなったんだ!?」

ライが問えばカレンはその瞳に怒りと悔しさを滲ませた。

正直ライをこんな目に合わせた女の事など考えたくもないのだが、しかし彼の問いには答えようと自分が見たありのままを伝える。

「行政特区は、ブリタニアの罠だったの。沢山の人が犠牲になった。ユーフェミアはゼロが撃ったわ……たぶん、死んだと思う」

ライに気付かれないように俯きながら、カレンは心の中でそっと心の片隅にある憎しみに蓋をする。

――叶うなら、私がこの手で殺してやりたかったという思いを……

(なんて、ことだ……僕は、また繰り返してしまったのか……!)

一方のライも、カレンが俯いて気付いていないのを理解すると心の中で自分を詰る。

どうして自分はまた止められなかったのだと……そしてふと、自分と同じ道を歩もうとしている友人が今どうしているのか無性に気になった。

「カレン、ゼロは今どこに?」

「えっ、あっ、ゼロなら……」

『ここにいる』

ライの表向きでも落ち着きを取り戻した問いにカレンが答えるよりも早く、男なのか女なのかもわかりにくい声が響く。

2人が聞こえてきた声の方を見ると、医務室の入口にゼロが立っていた。

その仮面の下の顔はどうなっているのか、正体を知らないカレンはもちろん、知っているライも、わからない。

『カレン、すまないがライと二人で話がしたい。席を外してくれないか?ラクシャータが紅蓮について話がしたいそうだ』

「……わかりました。それじゃあライ安静にしててね」

名残惜しいのか手を離すだけでも数十秒近くかけながらもカレンが部屋を出ていくと、ルルーシュはゼロの仮面を外し、ライの傍へと歩み寄る。

ライをあの会場に置きざりにしていたためか、その表情は暗い。

そしてその瞳には、赤い鳥が浮かんだままで。

(やっぱり、ギアスが暴走したのか……!)

「ライ、すまない……」

ライと視線を合わせないようにしながら謝罪するルルーシュを責めるのは簡単だ。

「謝らないでくれルルーシュ。これは、僕の罪でもあるんだ」

しかしライは、自分にだけはその資格があるとは思えない。

過去にこの力で彼以上の惨劇を引き起こした自分にだけは……

「何だと?お前の、罪?」

「僕は何も出来なかった。止められる力が僕にはあった筈なのに……!」

繰り返さないと誓ったはずなのに……ライは自分の無力さが、何も出来なかった事が悔しくて、シーツを握り締める。
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