長編 蒼と紅の軌跡

□TURN 08 奇跡の責任
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妹に否定され、兄は戦う目的を失った。
しかし、彼が立ち止まる事は許されない。
彼の戦いはもう個人の戦いではないのだから…。


『TURN 08 奇跡の責任』


黒の騎士団・潜水艦

ナナリーの確保に失敗した黒の騎士団は海中を航行中。
その一室でライとカレンは先の太平洋上奇襲作戦を振り返っていた。

「結局…ナナリーは確保出来ず、こちらはナイトメアのほとんどを失った」
「痛手よね…いくら人的被害が0っていっても」
「だが、ナイトオブラウンズと戦った事は決して無駄にはならない」

ライとカレンは今回の作戦でナイトオブラウンズ相手に善戦している。
その事からも二人は次に戦うときも臆する事なく戦えると確信していた。

「紅蓮と蒼月は強化されたしね。ところでライ、スザクの動きが急に変わった事だけど、あれが…」
「ああ、ルルーシュがスザクに掛けたギアスの力、反応速度があれほどになるなんて…」
「ルルーシュの奴、随分と厄介なことしてくれたわね」
「ルルーシュか…」

むしろ、二人が心配しているのは作戦終了後、全く元気のないルルーシュの方である。
ライが連絡を入れた時に出たのはロロであり、彼によると眠っているという事だった。

「とりあえず、ルルーシュが目を覚ますまではいない穴を埋めないといけない。君にも色々と手伝ってもらいたいんだが…」
「うん、私も出来るだけの事はするわ!」


tttt


一夜かけて大まかな行動指針を決めたライ達は、それを皆に伝えるために潜水艦の指揮所に向かっていた。

「…来なかったわね、ルルーシュから連絡」
「………………」
「まさか…このままゼロをやめるなんて…「カレン」…ライ…」
「僕達は信じよう、ルルーシュを…」

カレンにはこう言ったもののライは既に最悪の可能性を考慮している。

(ゼロは確実にナナリーに否定された。だけど…ルルーシュのあの様子を見る限りそれだけじゃない…)

方針を伝えたらルルーシュに会いに行こう、とライは心に決めて指揮所に入っていった。


tttt


部屋に入った二人が最初に見たのは大型モニターを見つめる幹部達の姿。

「おう、二人とも」
「扇さん、どうしたんですか?みんな、モニターを見て…」
「これから新総督の就任演説があるんだよ」

(ナナリーの考えは何かを知るにはいい機会だな…)

ライがモニターに目をやると同時に、ナナリーの就任演説が始まった。


『みなさん、始めまして。私はブリタニア皇位継承第87位、ナナリー・ヴィ・ブリタニアです。先日亡くなられたカラレス公爵に代わり、このたびエリア11の総督に任じられました。私は見ることも歩くこともできません。ですから、みなさんに色々と力をお借りしたいと思います。どうか、よろしくお願いします』

「よろしくお願いしますって…」
「なんか、調子狂うな…」

黒の騎士団の面々はナナリーの演説に毒気を抜かれた形になっていたが、次にナナリーが発した言葉にその動きを止める事になる。

『早々ではありますが、みなさんに協力していただきたいことがあります。私は行政特区日本を再建したいと考えています』

「なっ!?」
「行政特区日本…!(ナナリーの考えはこれだったのか!これは確かにルルーシュには大打撃だ、かつての自分の罪をまざまざと見せつけられるようなものだからな…そう、自分の…罪を…)」

ライは無意識の内に、微かにだが体を震わせていた。
行政特区日本の虐殺…それに責任を感じているのはルルーシュだけではない。ライもずっと責めていたのだ、惨劇を止められなかった自分自身を。

「ライ…」

隣に居るカレンだけがライのその変化に気付いた。しかし、あの場にいなかった彼女にはどうやってライの傷を癒せばいいのかがわからない。

(私は、こんなときにライの支えになってあげられない…!ライが自分を責めてるのはわかってるのに!)

『特区日本ではブリタニア人とナンバーズは平等に扱われ、イレヴンは日本人という名前を取り戻します。人種を理由に人と人が分かり合えないことはありません。日本人でも同じものを食べて、同じように笑っていいのです。かつて特区日本では不幸な行き違いがありましたが、目指すところは間違っていないと思います。等しく優しい世界を。黒の騎士団の皆さんも、どうかこの特区日本に参加してください。共に協力しませんか?互いに過ちを認めればきっとやりなおせる。私はそう信じています』

「はっ、あの総督も虐殺皇女ユーフェミアと同じってことだ。甘い言葉で誘い出して皆殺しってか?舐めやがってっ!!」

ナナリーの演説とそれに反発する玉城を筆頭とした黒の騎士団の面々。
それを聞きながら、ライは自分の罪を、カレンは自らの無力さを思い知らされていた…。


tttt


―エリア11政庁

「驚いたよ、ナナリー。その…特区日本を君が」

特区日本構想について何も聞かされていなかったスザクの言葉にナナリーは決意に満ちた表情を向ける。

「私はずっとお兄様に守られて生きてきました。今は行方知れずですけど、きっと私のことを見てくれていると思うんです。だから私はお兄様に見られて恥ずかしくない選択をしたいんです…」
「そうか…」

スザクは声に出すことこそしなかったが、内心では酷く驚いていた。

(ナナリーもユフィがなんて呼ばれているか、行政特区日本が日本人にとってどういう意味を持つのかを知らないはずはない…それなのに行政特区の再建を宣言した。さすが自分から総督に立候補しただけの事はあると言う事か…)

しかし、ナナリーは一転不安そうに顔を陰らせるとスザクに問いかける。

「スザクさん。ユフィ姉様がやろうとしたこと、間違っていませんよね…?」

ナナリーは今までは決してスザクの前でユフィについて語ることはしなかった。
彼を傷付けることが目に見えていたからである。
その禁を自ら破ったのだから相当不安なのだろう、スザクにそれを聞かなければならないほどに。
その問いにスザクはナナリーの傍らに膝をつくとその手を取って答えた。

「間違っていたのはユフィじゃない(そうだ、ユフィは間違ってなんかいないんだ…!全てはあいつが…!)」
「そうですか…ありがとうございます」

ナナリーは空がある方を見つめると、誰にも聴こえないようなか細い声で呟いた。

「ライさん…」と…。
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