短編

□幸せな眠り、双璧の安息
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『幸せな眠り、双璧の安息』



ラウンジの中に入るとそこに流れるような銀色を見つけた。それがライの髪だとすぐにわかって私―紅月カレン―の顔は綻ぶ。
それがライだってわかるのは、騎士団の中で銀髪なのが彼だけだから。まぁ、たとえ人混みでも間違えない自信があるんだけど。

「ライ」

ライの名前を呼んでみるけれど、反応は全くない。いつもなら彼は私が呼ぶとすぐに私の名前を優しげな声で呼び返すか、蕩けそうな笑みを向けてくれるからこんなことは珍しかった。

「……?ライどうし…あ…」

近づいていくにしたがって小さく聞こえてきたのは間違いなく寝息。
正面に回ってみると、ライはソファーに座って目を閉じて静かに眠っていた。読んでいる途中だったのか本が膝の上に手を重しにして乗っかっていて。
顔には疲労の色が濃く出ていて心なしかやつれたような気がする。

「ライ……」

ライはこの黒の騎士団の中でも一・二を争うほど優秀だから任される仕事も多い。
戦闘では毎回私と一緒に最前線で戦うし、最近はアジトの中で書類を持って走る姿をよく見かける。
恋人である私としてはライが認められていることは嬉しいけど、みんな彼に頼りきっているとも思うわけで…
最近はラクシャータさんの実験に付き合ったり、キョウトに行くのもライの役目になっていて明らかに働きすぎだ。

当然私はそれを知った時にすぐに休ませようとしたけどライが、

「大丈夫だよ、カレン。心配してくれてありがとう」

…なんて微笑みながら言うものだから結局強く言えなかった。
かといって、事務処理ぐらい手伝うと言ってもライは絶対にやらせてくれない。

「君はパイロットなんだし、学園との両立もしてるんだからしっかり体を休めるべきだ」

いつもこう言って自分で書類を片付けてしまう。

(何よ、それはあなただって同じじゃない…)

ライが私のことを考えて言ってくれているのはわかっているけど、やっぱり納得なんて出来ないししたくもない。
だって…私達は恋人でパートナーなのに、私ばっかり支えられている。そんなの嫌なのに、それをはっきり言えない自分に腹が立ってしょうがない。

「…今度は絶対に手伝ってやるんだから…」

密かな、でも強い決意を固めた私はライを起こさないようにゆっくり隣に座り、彼を観察してみた。
色白の肌に華奢な身体を見ていると、どこにあれだけの仕事を片付ける体力があるのか不思議に思えてしょうがない。

「でも、いいもの見たかも」

ライの寝顔を見るのは実は始めてだったりする。
彼が保護された時はニーナやナナリーと一緒に遠くにいたからよく見てはいなかったし、その後もライは気配に聡くて誰かが近付けばすぐに眼を覚ますから見るチャンスはなかった。
そんな彼が眼を覚まさないのはそれだけ疲れているからだってわかるのに、どうしても嬉しく思ってしまう自分がいる。
皆の知らないライを私だけが知ってるんだって、そんなちょっとした優越感が私の中に生まれて。
彼のこんな無防備な顔は私以外に知って欲しくない。

「私ってこんなに独占欲が強かったんだ…」

ライのことをもっと知りたい。
ライに私だけを見て欲しい。
最近はそんなことばっかり考えている。まさか自分がこんなになるなんて思いもしなかった。

(シャーリー、ごめんなさい。話を聞いてた時はバカにしてたけどあなたの言ってた通りだった)

恋に関しては彼女の方が上手だったことを今更ながら自覚する(そもそも彼女はあのルルーシュを想い続けているという点だけで充分凄いと思うし)。

「今度からは私も応援してあげよう…」

そんなことを思いながら、私は体を少し寄せてライの空いている左手に自分の右手を重ねた。
彼の手は大きくてやっぱり男の人なんだなぁ、って思う。
普段のライはどことなく中性的な感じがするから私はこういう時改めて実感する(ライにそのことを言ったら、凄く落ち込んでた)。
重ねていた手を動かしてライの手を握るとそれだけで自分の心臓が早鐘を打つのがわかる。

「〜〜〜っ…」

私は手を繋いだまま、沸き上がる恥ずかしさに必死に耐えた。
繋いだ手や寄せている身体から伝わってくるライの温もりを感じたり、トクン、トクンと音を立てる心臓の鼓動を聞いていると心臓がバクバク言って壊れちゃいそうなのと同時に、心の奥がふわふわして凄く落ち着いて、気持ちいい。

私は改めてライを見る。
ライと出会って私は凄く変わったと思う。
ちょっとだけ弱くなっちゃったかもしれない。
でも、それはきっと悪いことじゃない。
だって私はその代わりに掛け換えの無い人が出来た。
それに…違う部分はきっと強くなったから。
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