キリリク文
□恋人たちのセレナーデ〜新米カップルの試練〜
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僕達は青い月の祝福を受けて結ばれることが出来た。
だけど本当の試練はこれからだったんだ……
『恋人たちのセレナーデ〜新米カップルの試練〜』
「スー…ハー…よし!…………〜〜〜っ!やっぱりダメ!」
カレンはクラブハウスの前で右往左往していた。彼女の目的はただ一つ、昨日から付き合い始めた恋人に自作のお弁当を渡すためなのだが…
「ど、どうしよう…(お弁当を渡すだけなのに何でこんなに緊張するのよーーーっ!?)」
ブツブツと何事かを呟きながらクラブハウス前を行ったり来たりするその姿は傍目から見ると完全に不審者にしか見えない。
(諦めて教室で渡す?…無理無理!絶対に無理!)
「あ、カレン」
(じゃあどうするのよ!?このままじゃ、他の生徒もどんどん来るし…!)
「…カレン?」
(う〜っ…や、やっぱり今は退くしか…)
「カレンッ!」
「へっ?」
カレンは自分を呼ぶ声に思考の海から引き戻される。目の前には今、正に彼女が会いに来た人物…ライが立っていた。
「ラ、ライ!?(ちょっと待ってよ!?まだ心の準備が出来てないのに!)」
「やっと気付いてくれたか…カレン、おはよう」
「お、おはよう!ライ!今日もいい天気ね!」
「いや、今日は曇りなんだが…」
「あうっ…」
カレンは自分が空回りしていることが恥ずかしくて顔を真っ赤に染める。
「カレン、顔が真っ赤だぞ!熱でもあるのか!?」
ライの見当違いな心配にカレンは腹が立つのを禁じ得なかった。何故目の前にいる彼はここまで冷静に、普通でいられるのか?自分はどうしたらいいかわからなくてこんなに空回りしているのに。
「なんで…なんで、そんなに平然としてるのよ…………」
「えっ?」
憤りと恥ずかしさが頂点に達したカレンは思いっきり拳を振り抜いた。
「これじゃ私1人がバカみたいじゃないのよーーー!」
ゴスッ!!
ライは防衛本能から咄嗟に腕で防御するが…痛い、物凄く痛い。ピリピリと痺れが腕から身体中に伝わり思わずライは身体を震わせた。
「痛っ!?痛いよ、カレンッ!」
「うるさい、うるさい、うるさーーーい!!」
ライの言葉が耳に入らないらしくカレンは更に拳を振り抜いてくる。ライは回避するがカレンの攻撃は止まるどころかその激しさを増していった。
「バカ、バカ、ライのバカーーー!」
「カレン、頼むから落ち着いてくれ!(何故僕はこんな状況に陥っているんだ!?僕は彼女に何かしたか!?)」
普段は人の心の機微に敏感なライだが、何故か恋愛事に関しては超絶的な鈍さを発揮する。今回も彼は何故カレンがこんなに怒っているのか全くわかっていなかった。
「(っ…!このままじゃ…!だけど反撃なんて出来るわけ無いし…仕方ない!)カレン、ごめん!」
「へっ?…ってきゃあ!?」
ライはカレンの腕を掴むと引き寄せ、もう片方の手で抱きしめ身動きを封じる。
「ちょっ…!?放してよ!」
「断る!」
カレンが抵抗するがライは腕の力を緩めない。その内諦めたのか彼女の抵抗が弱くなっていく。
「…落ち着いた?」
「…………うん、でもちょっと痛いわよ…ライ」
「あっ!ごめん!」
ライはすぐに離れようとするが、カレンは慌てたように彼の制服の裾を握り首を振った。
「あっ、違うの!力を緩めるだけでいいから、その…もうちょっとだけ…ダメ?」
「〜〜〜!!?(ちょっと待て!?いくらなんでもそれは反則だろう!)」
カレンの上目遣いのお願いにライは思考がパニックになりながらも、壊れ物を扱うように優しく彼女を抱きしめる。
「全く…恋人になって初日からこんなことになるなんて思わなかったよ…」
「ううっ…だってそれはライが…」
「僕が?」
「ライが…平然としてるから…私はこんなにドキドキしてるのに…」
「……?…………ッ!!」
カレンが何を言いたいのか、一拍遅れて理解したライは自分の顔が熱を帯びていくのがはっきりとわかった。
「す、すまない…気が利かなかったな…」
「私の方こそごめんなさい…痛かったよね」
「これくらい、心配しなくても大丈夫だよ」
本当は腕がズキズキと痛むのだが、ライはそんなことは全く感じさせない様子で微笑む。
「…………」
沈黙…気まずいものではなく心地よい沈黙の中、だんだんといい雰囲気になっていった。
「ライ…」
カレンがライを見上げると目を閉じる。いくらライでもその行動の意味する事がわからないほど馬鹿ではない。
「カレン…」
ライは引き寄せられるようにカレンにゆっくりと顔を近づけていった。そして、二人の唇が重なろうとした瞬間…
「お前達…!いい加減にしないかーーー!」
…無粋な乱入者が現れた。