長編 蒼と紅の軌跡
□TURN 02 砕かれた仮面
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『ライ……』
「扇さん!大丈夫ですか!?」
『ああ、俺は大丈夫さ……』
そう言う扇の声はしかし言葉とは裏腹に弱々しい……ライは長く話す事は出来ないだろうと判断し、本題に切り込んだ。
「手短に済ませましょう、話とはなんですか?」
『君は、戦場の様子をリアルタイムで……見ているな……?』
「はい、それが……んっ?」
画面に眼を移したライはそこにあり得ないはずのものを観た。
戦場から離れていくナイトメア……それもこの黒の騎士団との戦いならますます離れないだろう存在。
「ランスロット!?なんでこんな外れに……そうか!」
ゼロに憎悪を向けているだろうスザクが主戦場のトウキョウ租界からいなくなる。
そしてゼロの戦線離脱……組み合わせて考えれば答えは一つしかない。
『カレンに、伝えてくれ……きっとゼロの行動には……意味が……ごふっ!』
「扇さん!?くっ、副司令の治療を続けてくれ」
扇から団員に通信機が渡された事を確認したライは、それだけを指示するとカレンに通信を繋ぐ。
「カレン、聴こえるか?」
『ライ、ライッ……!扇さんが撃たれたって……!』
「ああ、今皆が全力で治療に当たってる」
『それにゼロが……私どうしたら……!』
「カレンッ!!」
ライの怒鳴り声にカレンが息を呑むのが伝わってくるが、彼はそれに構わず言葉を紡いだ。
今のカレンは冷静さを欠いている……まずはそれをどうにかしなければならなかったのである。
「紅月カレン、君はなんだ?」
『えっ……?』
「君は零番隊隊長だ。そんな君がそこまで動揺したら、君の指揮下にいる隊員達にいらぬ動揺を与える事になる……それはみんなの死に繋がるんだ」
まずは落ち着いてもらわなければ話も出来ない、そういったライの伝えたい事がわかったのかカレンはコックピットの中で俯いた。
『ごめんなさい、私……』
自分の様子が隊長として最悪なものだったと気付いたのだろう、表向きにかもしれないがカレンの声から動揺は見受けられない。
ひとまず落ち着かせる事は出来たと判断したライは、パソコンを見ながら再びカレンに話しかけた。
「よし、カレン。そこからランスロットが見えるな?」
『えっ、あっ!なんであいつあんなところに!?』
カレンの疑問にライは答えない。
ゼロが消えた以上、これくらいの想像は教えなくても出来てもらわなければいけないのだ。
(黒の騎士団の最大の弱点……それはゼロに状況判断を完全に委ねていることだ。自分で考え、行動しなければ、ゼロがいないという事実だけでこんなに脆くなってしまう)
『今のあいつはゼロに執着してるはずよね……もしかしてあいつの行き先にゼロがいる!?』
(正解だ、カレン。だとすれば君が次に取るべき行動は?)
『空輸機を私に回せ!最優先だ!!』
カレンの力強く指示を飛ばす声にライは小さくそれでいいと呟く。
今のランスロット相手に輻射波動を失った紅蓮単独ではキツいだろうが、ガウェインの援護に回れば十分に立ち回れるはず。
許されるなら、自分も共に向かいたいが……それが許されない事をライは理解していた。
『ライ、私……これからあいつを追うわ』
「ああ、ゼロは頼んだ。僕はこちらを何とかするから……無事に帰ってきてくれ」
『うん、じゃあ……』
カレンとの通信が切れると同時に、ライはベッドから出ると格納庫に向かって走り出す。
少しでも自分に出来る事をするために。
††
格納庫では学園から戻ってきていたのか、ラクシャータが煙草を吸っていた。
走ってくるライの姿を見た彼女はニヤリと笑って口から煙管を離す。
「あら、随分と早かったじゃない〜」
「ラクシャータ、蒼月は?」
「ちゃんとコンテナに入れて倉庫に隠したわ。それと……この子の調整も完璧よ」
そう言ってラクシャータが煙管を向けた先には、ライのかつての相棒……月下がそびえ立っていた。
「……感謝する」
「それでも十分ぐらいしかもたないわよ?」
「構わない。皆を助ける為に僕は……」
「死に急いじゃダメよ〜?あんたはカレンちゃんと並んで優秀なんだから」
「ああ、わかってるさ」
こんな時でも変わらないラクシャータにライは笑うと月下に乗り込み、ハッチを閉める。
「……行こう、月下」
そしてライは月下で祖界に飛び出していった……