長編 蒼と紅の軌跡
□TURN 05 偽りの世界
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―アッシュフォード学園―
その頃、ライに演説させている間に学園へと戻っていたルルーシュは…
「会長、今日は俺とロロの生還記念パーティーですよね?」
「そうよ〜、よくぞ無事に帰って来た!ってね〜!シャーリーなんて、『私…ルルがいなくなったら』って「うわわわっ!!会長!!」むぐっ…」
なぜか自分の生還祝いの準備をしていた。
「いや〜、だけどルルーシュ上手いよなぁ〜!この手のキャラって生活力ないのが普通なのに」
「家計簿もつけてそうよね!」
「ああ、わかります!ルルってそういうところ細かそうだし!」
わいわいと騒いでいる生徒会メンバーを見ながら、ルルーシュは辺りを見渡す。
「そういえば、ロロは?」
「声はかけたんだけど…」
「兄と違ってナイーブなのよねー…本当に兄弟なのかって思うぐらい」
「っ…」
「ルルーシュ?どうしたんだよ?」
「いや、なんでも…(みんなナナリーのことを覚えていない。いや、妹のナナリーが偽りの弟にすり替わっている。俺の記憶を変えただけではなく、生徒会のみんなまで玩具に…なんてことをっ!!)」
ルルーシュにとってこの学園は、生徒会メンバーはある意味聖域で。それを踏みにじられた事に静かな、しかし激しい怒りを覚える。
「だけどさ〜、ルルーシュって運動以外本当に完璧だよな。まぁ、そういう意味じゃラ…」
リヴァルは自分が出そうとした名前が失言である事を思い出し慌てて口を閉じた。
「いいのよ、リヴァル。別にライは悪いことをしてるわけじゃないんだし…」
言葉とは裏腹にミレイの顔は暗くなってしまう。
「あ〜あ…どこをほっつき歩いてるんだか…連絡ぐらいしなさいよね…」
力なく笑うミレイに皆の表情も沈んでいくなか…それを壊したのはルルーシュだった。
「大丈夫ですよ、会長。あいつなら、ライなら大丈夫です」
「ルルーシュ…」
「俺の知る限り、あいつはそういう礼儀をきちんと守る男です。きっと今はまだごたついていて連絡する暇がないだけですよ」
「…そうね!ライは私の可愛い弟分だもの!きっとどこかで元気にやってるわよね!」
ミレイの表情にいつもの元気さが戻っていく。
「よーし!今はとにかくルルーシュ達の生還祝いよ!ガーーーーッツ!!」
ルルーシュは目を閉じ、静かに心の中で謝罪した。
(すいません、会長。しかし今はまだライは…)
ルルーシュの心に灯る怒りの炎は更に激しさを増すのだった……
tttt
―中華連邦総領事館―
「…そうか、ミレイさんがそんなことを…」
ライはルルーシュから学園でのやり取りを聞いて、目頭が熱くなるのを感じた。
『ああ、会長だけじゃない、シャーリーやリヴァルもお前の事を心配していた』
ルルーシュの口調からもそれが真実である事は容易にわかる。
「…そういえば、君は今どこから電話してるんだ?学園には機情の監視があるはずじゃ…」
ふと感じた疑問だが、考えればルルーシュがこうして自分と話しているのは危険なはずだ。しかしそんなライの疑問にルルーシュは笑って返す。
『あったのさ、唯一機情の網の目となる場所が。お前もよく知る場所だ』
「……まさか」
ライはルルーシュが今いるであろう場所に気付き、苦笑した。
(なるほど、確かにそこならミレイさんたちが誰かが入るのを阻止するだろうな)
『わかったようだな』
「ああ…僕の部屋…だろう?」
『正解だ』
ルルーシュによるとライの部屋はいつ帰って来てもいいように鍵をかけており、開かずの間となっているらしい。そしてその鍵を管理しているのがルルーシュという事を知っているのはミレイだけだと言う。
『知っている奴は少ない方がいいからな。シャーリーやリヴァルもこの事は知らない。…当然偽りの弟も』
「偽りの弟、ロロ…だったな?どうするつもりだ?」
『策はある、策はな…とにかく少しだけ待っていてくれ。すぐにここを自由の城にする』
「…なら、連絡はしなくていい。危険はなるべく排除したいからね。じゃあ…いい話を待ってる」
『ああ、楽しみにしていろ』
ピッ…
「ルルーシュ、なんだって?」
「……………」
「ライ…?」
カレンはライが黙り込んだのを訝しげに見ていたが、拳がきつく握りしめられて血が出ているのに気付き、慌ててライの手を握った。
「な、何してるの!?」
「許さない…」
「えっ?」
ライの言葉にはカレンが今まで感じたことのない、憎悪が滲み出ている。
「よくも…よくも皆を弄んでくれたな…!ブリタニア…いや、シャルル・ジ・ブリタニア…!!」
ギアスで人を弄んだ自分にそんなことを言う資格がないことぐらいライにだってわかっていた。しかし…それでも怒りを抑えることはできない。
「ライ…」
カレンの心配そうな声音と表情にライは無理に笑顔を浮かべる。
「大丈夫…憎しみで目を曇らせはしないさ…ごめん、心配かけ…!?」
ライの言葉は最後まで続かなかった。カレンがライの頭を抱きしめてきたから。
「…強がりなんて聞きたくない」
「カレン…ありがとう…」
ライは目を閉じると静かに涙を流す。
(全く…僕は彼女には敵わないなぁ…)
カレンが傍にいるだけで心のしこりが溶けていくような気がして。ライはしばらくの間、カレンにその身を委ねるのだった……