キリリク文

□猫とナイトと唇と
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僕は君を守りたい、それが何であったとしても。

記憶も素性もはっきりしてない僕だけど、それだけは確かにはっきりした気持ちだったんだ…


『猫とナイトと唇と』


―ライの自室―


「コーネリアに『サムライの血』が潰された?」

ライは自室でパソコンを操作しながら、協力しているレジスタンスのリーダーである扇と電話していた。

『ああ…チュウブ最大の抵抗勢力だったってのに…』
「…ゼロはなにか言ってましたか?」

ライが一応協力関係にあるもう1人の名前を出せば、電話ごしからでもわかるくらい扇の声が元気を失う。

『こちらから掛け直すって切られちまったよ…俺達も身の振り方を考えなきゃいけないのかもな…』
「そうですか…わかりました。後でカレンと一緒に合流しますから、詳しくはその時に話しましょう」
『ああ、頼む…ゼロが離れそうになってる今、頼れるのは君だけなんだ…』
「はい、それでは…」

扇との通話を終えたライは、すぐにカレンに電話を掛ける。数回のコールの後、声を抑えたカレンの声が電話から聞こえてきた。

『…もしもし、ライ?』
「カレン、扇さんから連絡があったんだが…なんでそんなに声を抑えてるんだ?」
『…今周りにうっとうしい連中がいるの。だからあんまり素は…』

病弱なお嬢様を『カレン・シュタットフェルト』を演じているカレンはその容姿も相まって親衛隊が存在するほど人気がある。
ライ自身も少し話していただけで嫌がらせを受けたほど熱狂的なその親衛隊は、常日頃からカレンの周りに張り付いているため彼女は気を抜いて素の『紅月カレン』を出す事が出来ずにいるのだ。

「はぁ…わかった。話は人のいない所でした方がいいな。君は今どこにいる?」
『外にいるけど、どこに行けばいい?』
「そうだな…屋上で待ち合わせよう」
『わかったわ、じゃあまた後で』
「ああ、僕もすぐに行く」

カレンの置かれている状況になぜか苛立ちを覚えながら電話を切ったライは、パソコンを見るとさらにその顔を険しくする。
そしてパソコンを…正確にはそこに映る仮面の人物を睨み付けながら呟いた。

「利用するだけして切り捨てにかかったな、ゼロ…だけど君はいずれ僕達と組むことになる。必ずな…」

ライが表情をいつもの無表情に戻し、カレンと合流しようと部屋から出たのと同時に、それは始まった。

―嵐を呼ぶ全校放送が―

『こちら、生徒会長のミレイ・アッシュフォードです……猫だ!!』
「…ミレイさん、また何か始める気か…?」
『校内を逃走中の猫を捕まえなさい!部活は一時中断、協力したクラブには予算を優遇します』
「ははっ、ミレイさんらしいな。何でもお祭り騒ぎにしちゃうんだから…」

ああいうアグレッシブなところは見習うべきなのかもしれない。そう思って珍しく浮かんだライの笑顔は、しかし次の言葉で完全に消え失せる。

『そして〜、猫を捕まえた人にはスーパーなラッキーチャンス!生徒会メンバーからキスのプレゼントが!!』
「何っ!?今なんて言った!生徒会メンバーって…まさか、カレンもか!?」

ライの頭の中に浮かぶのは他の男に唇を奪われるカレンの姿…それはとてつもなく不愉快な光景だった。

「…嫌だ」

どうしてかはっきりとはわからないけど…カレンを渡したくない。そんな思いに突き動かされてライはクラブハウスの窓を割れんばかりの勢いで開く。

「ミレイさんッ…!恨みます!!」

ライは全校に流れるミレイの高笑いを苦々しく聴きながら、クラブハウスの窓枠に足をかけ…外に飛び出していった。


††††


一方その頃、ライとの待ち合わせ場所に向かおうとしていたカレンもまた、聴こえてきた全校放送に耳を疑っていた。

「生徒会って…私も!?」
「「そうですよね!!」」

カレンが呆然と呟くと草むらから男子生徒がたくさん飛び出してきた。予想を遥かに超える人数に驚いたカレンはピシッと固まるが、彼らはそんなことお構いなしに盛り上がっている。

「生徒会に出入りしてるし」
「お嬢様のくちびる」
「ほっぺたとかそういうオチじゃないですよね」
「いやぁ〜この際ほっぺたでもいい!」
「えっ、場所指定出来るの!」

「「じゃぁ〜、ヨッシャー!!!」」

男子生徒達は一斉に走りだして行った。顔をひきつらせて固まっていたカレンはすぐに我を取り戻す。

「やめてよ…私の初めてのっ…!(ライ以外に渡す気なんてさらさらないわよ!)」

とにかく先に猫を捕まえようと走り出したカレンの耳に、さらなる絶望的な知らせが入ってきた。

「生徒会メンバーって事は…ルルーシュ君もOK!?」
「ルルーシュ君もだけど、もしかして…ライ君も!?」

「っ!!(そうだ…ライも生徒会メンバーじゃない!)」

カレンの脳裏に浮かぶのはライが誰ともわからない女にキスをする場面。奇しくもそれはライが不愉快に感じていたような場面と似たようなもので。

そしてそれにいい感情を抱かないのは…カレンも同じだった。

「冗談じゃないわよっ…私だってまだ気持ちを伝えてないのにっ…!!」

カレンはライに淡い恋心を抱いていた。シンジュクゲットーで出会い、カレンを助け、危険だとわかっていながら自らもレジスタンス活動に協力をしてくれるライ。
カレンがそんなライに惹かれていくのに時間はかからず…彼と過ごす時間はこの偽りの学園生活の中でもかけがえのないものとなっていたのである。

「…渡さない、私のファーストキスも…ライのキスも!」

そんなライが誰かに奪われるなど、到底認められるわけがない。黄色い声を上げる女子達を尻目に、カレンは病弱設定も忘れて走っていった。
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