「軍人将校とけもの姫」


〜(本文見本)〜



「おまえ……やっぱり、ちょっと変わってるな」
 少年の腕からするりと離れて、少女が鼻を突き出してくる。突然の行動に、アスランは慌てたけれど、少女はおかまいなしに距離をつめた。
「匂い。変だぞ、おまえ」
「におい……?」
 袖を嗅ぐアスランの動作を、少女にけたけたと笑った。
「ちがう、そうじゃなくて」
 もう一度、少女の顔が近づいて、長い睫まで見ることのできる距離にアスランはやはりためらうけれど、少女の鼻先は接近してくる。彼女はまぶたを落としてじっくりと何かを堪能している……ように思えた。
「――うん。やっぱり変だ。おまえ」
「カガリ、もういいでしょ」
 少年の声に促されて、少女はようやく身を引いた。ものたりない、という表情をしていたけれど、少年の腕に着物の裾を引っ張られてしまっていた。
 どうやら少年が保護者的な役割を担っているようだ。
「ゴメン」と素直に謝る少女。笑みを返す少年。
 彼は少女の手を引くと、そのまま林へと歩きはじめる。少女だけがアスランを振り返って手を上げる。
「じゃあな。わたしは行くから」
 何か言わなければならない気がして、言葉をさがしているアスランに空をつきぬけるような軽やかな声が届いた。
「カガリだ!」






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