「光くれた君に」


〜(本文見本)〜




キラの顔にやわらかい風が触れた。
日が沈んで薄暗くなった外で、かすかに人の気配がして、キラはそれを確かめようと部屋の窓を開けた。思ったとおり、玄関前には人影がある。
背格好から、抱き合っているように見える二人が誰なのか、キラにはすぐわかった。

(まったくもう……。家の前ではやめてってあれほど言ってるのに)

心の中で小言をこぼしながらキラは窓枠に肘をおき窓の外を眺める。
アスランの横顔は蕩けそうな笑みを浮かべたり、カガリは手足をばたつかせたり、なかなかおもしろい風景だった。
人目をはばからない二人のようすは、キラをほっと安心させた。ときおり聞こえてくるカガリの声には、放課後には失われていた明るさがあったから、それだけで何もかもうまく解決したのだと思えた。


外灯が明るさを帯びてきても、まだ二人は抱き合っていた。

(……いつ止めに入ったらいいんだろうね、これ)

アスランが目を伏せてカガリに何かを伝えているようだけれど……その甘やかな台詞がキラの耳まで届くことはなかった。





「――十年後もいっしょにいよう」

「……うん」

 カガリが頬を肩にすり寄せながら答えて、そんなしぐさも、照れ隠しに横を向かれる動作もかわいいと思えてしまう。

「……次にあそこに行ったときは……誓ってもいいぞ」

 小さく紡がれた言葉に、アスランはその意味を聞き返した。

「だ、だからっ……おまえが、リ、リハーサルとか言ってたやつだ……っ」

 覗きこんだカガリは顔を真っ赤にして、アスランは彼女の動揺ぶりに思わずぷっと吹き出した。
「あれは冗談だって最後に言わなかった?」

「え? う、……」

「うそだよ」

「お、おまえなぁっ!」

「ごめんごめん。嬉しいよ、ありがとう。カガリが引き留めてくれたときから思っていることだよ……一生そばに在りたいって。君は俺を、何度も救ってくれたから……」


 迷いの道に、光くれた君だから。
 光こぼれるその笑顔をずっと守っていこうと決めた。


「……アスラン」

 背中が反るほどに抱き締めてくれる腕に、カガリの胸は喜びと心地よさでいっぱいになる。
ここが自宅の玄関前だということを忘れて、人目など気にならなくなりはじめたカガリは、もちろんキラがずっと二人を眺めていることも知らず、寄せられた唇に身をゆだねた。




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