リクワイアに生きる者〜過去編2〜

□西レッド・パルフ編
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 それからの修行と言えば、近くにある灼熱の洞窟、「炎の洞窟」での修行の日々。ポライトやその家族には内緒で出かけて修行し、ホーレーには事情を話したがそのことは言わないようにお願いした。生半可な気持ちで挑めば辛いだけのこの修行は、俺だけでも守れる力が今以上に欲しい―――それ以外に何もなかった……いや、ひょっとしたらポライトに負けたくなかったのかもな。なぜ彼女が魔法を扱う力を持ってるか―――それはあの短剣が答えを持ってた。あいつは別に修行をこなして魔法を扱う技術を身に着けたわけじゃない。その短剣に秘められた力のおかげだ。シャイニングブレード―――彼女はそう言っていた。その短剣自体が巨大な魔力を秘め、その魔力が人間の中にある魔力と呼応し、魔法を扱う能力を身に着けられる。人間たちがこの事実を知れば、シャイニングブレードがどれほどまでに魅力的な武器か―――だからか、このことは身内だけが知る情報で、外部の者には一切その情報を漏らすことはない。もし認知されれば、それを手に入れようと多くの人間がその武器にたかり出すことだろう。そうなれば秩序の崩壊や今ある平和を保つなど、おそらく今以上に難しいものとなる。俺にこのことを話してくれたのは、幼馴染で信頼できたからか、はたまた別の何かか―――それは俺が知るところじゃない。なぜ彼女がシャイニングブレードを持ってたのか―――そういうのももちろん俺は知らない。が、そんなのは関係ない―――俺は俺なりに、守れる力を手に入れる。俺はただ、それだけ一心不乱に修行をこなし続けた。


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 そんな修行を何度も続けていたある日――――俺はいつものように洞窟の中で、何度やったか数えることすら諦めるほどやった修行を続けていた。だが、その修行の最中、普段感じない誰かの気配―――それも旅人ではなく、殺気のようなものを纏った集団の気配を俺は感じ取った。
「……なんだ?」
 その気配の正体は、なんとなく俺自身分かっていた。また“襲う”つもりなのだろう。俺は奴らの死角になる壁に隠れ、そこから気配を感じる方向を覗く――――案の定俺の予想通り“奴ら”だ。殺気立った気配がその集団全体を包んでおり、おそらく俺があの集団に1人で突っ込んだところで返り討ちどころか逆に死ぬ可能性のほうが遥かに高すぎた。俺は何も語らずただ静かに進行していく奴らの姿を見守った後、再びエットサンへ奇襲を仕掛けるであろうことを確信し、姿が見えなくなると後を追うように俺はそこから飛び出した。
 エットサンに到着するまではそんなに時間はかからなかった―――だが、洞窟を抜けた瞬間に奴らは走り出し、一気に奇襲を仕掛けるといった、これまでと同じ方法で町へ襲い掛かっていた。俺が入口に来た時、既に襲撃は始まっていて、あちこちで悲鳴や叫ぶ声、剣と剣が交わるような音など、いろいろな音が俺の耳に入ってきていた。
「……っち、なめた真似しやがって!」
 そんなことを俺は呟きながら、奴らの暴れまわる場所へ走り出した。無論、ずっと修行を続けてはいても俺が魔法を出せた試しは一度もない。おそらくまだまだ俺は修行を続けなければならないのだろう。だから俺は奴らを見つけては殴り、蹴り、そして倒す――――奴らが武器を持って戦いにきても、俺はその攻撃をかわしてその隙を取る。そうしてより少ない犠牲で今回も奴らを諦めさせ、撤退させようと俺は決めていた。本来なら奴らの本拠地なりに乗り込んでつぶしにでもかかりたいが、場所の特定どころか行くにも人数が足りなさ過ぎてどうしようもないのが現状だ。今こうして俺たちは、襲撃があるたび迎え撃つしか方法がないことに、若干の悔しさを覚えている。
 俺は道の角を曲がり、そのままホーレーたちがいる家の近くまで戻ってくる―――が、俺はその時、かつてのトラウマを想起させるような光景を目の前に見てしまうことになった。
 倒れている2つの体。そしてその倒れた2人を、絶望するかのような目で見つめている少女と男の子―――ポライトとホーレーの目の前に倒れている2人は、俺もよく知る人物だった。そして、その2人を殺した犯人は目の前でほくそ笑んでおり、戦う気力を奪われた彼女は膝をがくっと落としたままその2人の姿を見ているだけだった。
「大丈夫だよ嬢ちゃん……すぐにお前も一緒にあの世で送ってやるからよ」
 そう言いながらケラケラと笑う男。残虐な行為を目の前にし、彼女は正気を失いその場で固まっていた。このままではポライト自身も殺されかねない――――そう思った時、男の持つ血のついた剣は、彼女の体を貫こうと振り上げられていた。
「………めろ………」
 そのトラウマに、俺自身も震えていた。目の前で殺された――――ポライトの両親は、俺が両親を失った後も、その傷を癒してくれるかのように養ってくれた。まるで本当の家族のように――――そんな大切な人が目の前でまた殺された瞬間を―――そしてまた今度は幼馴染まで失いかけようとしている。俺は何のために今まで修行をしてきたんだ? 俺は何のためにここまで辛い思いをしながら毎日のように洞窟へ通った? その意味は、今は俺とホーレーしか分からない。だが、まだ守れるものが目の前にあるなら――――。
「死ね小娘ェ!」
「やめろぉぉぉぉぉぉおおおおおおおお!!」
 距離的に俺の拳も蹴りも、奴には届かない―――だが、俺は胸の中から感じた熱い想いを持ったまま、その右手の拳を前に突き出した―――瞬間。
「!? おあっちっちっち!?」
「……!?」
 その瞬間何があったのか、俺自身もよく分かっていない。ただ、俺が前に突き出したことで、目の前にいた男は炎に包まれていた、ということだけは把握できた。ポライトもそれで我に返ったのか、目の前で炎に包まれ熱さに耐える男を見つめた後、彼女は俺のほうに顔を向けてきた。
「レッド……?」
 その時、俺は確信した。俺の内に秘められていた魔法を扱う能力―――それを俺は開花させることができたんだと。確信したからこそ、俺は先ほどの感覚のように手に力を込め―――俺は構えを取った。後から聞いた話によればその時俺の立つ地面には赤い色の魔法陣が浮かび上がってたらしく……俺はそれに気づかないまま、炎の魔法の基本となる技を発動した。
「『フライバル』!」
 その叫ぶ声に呼応した魔法陣は赤い光を強くし、俺の目の前に炎を出現させ、それが男のほうへと向かっていった。男は追撃できた炎の攻撃も当たり、体を燃やしながら奴はその場から退散して行ったが、やがて少し離れたところで黒こげになって倒れる姿を確認した。
「…………」
 俺はついつい右手を見つめてしまう。ずっとポライトに隠していたことだったが、修行でずっと出せなかった魔法がここで出せると到底思っていなかったからだ――――彼女ももちろん、今までずっと俺がどこかへ行きどこからか戻ってくるといつも疲れたような顔をしている姿を見ていたからこそ、なんでそんなに疲れてるのかと疑問は持っていたが、それを聞くことがなかっただけに、まさか人間がこうして魔法を出す能力を備えられたというその現実を見て、驚きを隠せないでいた。
「レッド……」
「……守れたな、俺も。借りは返したぜ」
 たぶん……いや確実に俺は動揺してただろうな。だけどそれを俺は必死に隠しながら、座り込んでいる彼女に向かってそうかっこつけたセリフを返してみた。おかしかったのか、複雑な心境のせいか――――ポライトは少しだけふっと鼻で笑った。
「ほんと、バカねレッドは……」
「ば、バカってなんだバカって!」
「ううん、いいの……」
 そう言いながらポライトは短剣を持ち直して立ち上がる。全くこういう時の彼女の心境は読めないから困ったもんだぜ……。だけど、自分の命が助かったことにほっとした分があるからか、我に返ってからはいつもの切り替えの早さからキリッとした顔になって俺を見つめていた。
「ありがとう、レッド。さ、いくわよ」
「お……おう」
 普段言われ慣れない言葉。それを彼女から聞けた時、俺はどこかトクン、と胸がドキッとするような感覚があった。俺はきっとこの時、こういう状況でありながら彼女をちゃんと1人の女性として意識し始めてたのかもしれねぇな―――いや、きっとそうだろう。とにかく俺たちはこのまま奴らを牽制させようと動き回り、そのまま奴らは人数を大きく減らしてエットサンを出て行った。犠牲者は全体から見ればほんの10人程度……十分抑えることができたが、それでも犠牲になった者がいることは悔やまれる。
「ねえ、おにいちゃん」
 ふと俺とポライトの隣に、襲来で合流してからずっと静かに一緒にいた弟のホーレーは、俺に優しく話しかけてきた。
「まほー、つかえるようになったの?」
 まだ幼く、状況の理解をすることができないホーレーは、俺が放ったあの魔法のことを聞いてきた。たしかにこの過酷な惨状を悲しむより、興味を持った気になることを聞くほうが、まだいくらか慰めになるのかもしれない。そう言いながら本人はそこまでのことを考えられるほどの年齢でもないし、子供の純粋な心にはたまに感謝したくなると言っていた主婦層の言っていることがなんとなく理解できた気がした。俺は若干微笑みながら、唯一血のつながった家族の小さな頭に手を乗せ、撫でた。
「ああ、使えるようになったぜ」
「……いつもどこで何をしてるのかと思ったら、過酷な修行でもしてたの?」
「お前がそうやって魔法使えるのが羨ましかっただけだよ。つってもま……俺だって欲しかったからな、魔法の力、みたいなやつ」
 それで守れるものがあるなら――――実際に俺は守ることができた。それだけで俺は満足だったんだ。だが、そんな気持ちを表に出したところで――――だがポライトはその言葉にはぁ……とため息のような呆れるような、そんな声を出してきた。
「な、なんだよ……」
「……ほんとバカね」
「だ、だからなんだよそれ!」
「バカには分からないからバカなの、分かった?」
「ぐ……」
 何も言い返せねえ……そう思いつつ、俺はなんだかんだ目の前で救えた命が1つでもあったことが本当によかったと思えていた。お互い両親を失ってしまったショックを抱えた者同士ではあるが―――それでも今後もこんな世の中だって乗り切ってみせる、なんてな―――そんなことを俺は思いながら、俺たちはその後奴らの残した傷跡を見てその後処理を、生き残った人たちとこなしていくことになった。
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