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□the secret mind
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弱いとこ隠そうとしてるから、つい、引き剥がしてしまいたくなる。







the secret mind








五限目が自習なのをいいことに、俺は珍しくフケることにした。

冬になる直前の、まだ少し暖かな秋晴れは、放っておくには少し勿体ない気がして…なんて言ったら、きっと引かれるだろうけど。

屋上は立入禁止で、昔から施錠したまんま。
で、鍵は錆ている。
そして、何代前かは知らないけど、卒業生がそれを壊し、

ぎぃ…

つまり、今はこっそり出入りが自由であることを、以前準太から聞いていた。

俺が扉を開けると、少し冷たい爽やかな風が吹き抜けていった。

思い切り空気を吸って、ゆっくり吐き出す。

頭上に広がる、青くて、高くて、どこまでも広がってそうな空。忙しかった夏とは違う、秋晴れの空。

純粋に、綺麗だと思…

「っくしゅん」



くしゃみ?

誰かいるのか?

ふと視線を感じて見ると、給水タンクの裏から、人の頭らしきものがこっちを覗いていて、すっと引っ込んだ。

あれは…

「…何してんすか、先輩」

「ヨ、タケ」

覗き込むと、給水タンクの後ろでタンクに寄り掛かっていたのは山ノ井先輩だった。

一気に気分が悪くなる。今一番軽蔑している人物なのだ。

投げ出したその足は、すやすや眠る島崎先輩の枕になっている。

「タケ五限目サボるの?お主も悪よのぅ」

「はあ、まあ」

「だめじゃん、そこはお代官さまで返ししなきゃ」

糸目の先輩はほややんと笑いながら、隣に座るように示した。
う。何だか従いにくい。こないだのことを思いだしちゃて。

準太いじめの主犯たちは、少し前にこぞって部活を辞めていった。しかし、この人は未だ在籍中である。準太いじめてたくせに、ひょうひょうと周りをだましてまだ部活に残ってるんだ。

島崎先輩は、起きる気配すらない。

この人も騙されてるっていうのに。

安心しきって眠っているみたいだ。

「座りなよ?」

仕方なく、隣に腰掛ける。

「いい天気だねぇ」

「そっすね」

「慎吾アホ面だねぇ」

「…そっすね」

「タケさ、緊張してるの?」

「えっ」

急に言われて、内心びびる。

「そりゃそうか〜。レギュラー以外の先輩とはあんま喋んないしね」

それは一見、レギュラー入りしている俺へのあてつけの台詞のようだった。しかし、言葉に毒がない。自然に、肩をすくめて言われる。

だけど、緊張してるのはそんな理由じゃない。

いや、緊張って言うより、怒りだ。
だから、皮肉にとってやる。

「でも、山ノ井先輩だってもしかしたらもうすぐレギュラーになれるかもしんないって、こないだ聞きましたよ」

「へ?誰に」

俺は山ノ井先輩の膝枕で爆睡しているもう一人の先輩を示した。

「慎吾が?うっそぉ」

「本当です」

そう。これは本当。

準太をいじめてた奴らがいなくなったから、倍率も優しくなったっていうこと。

あんたは、島崎先輩たちを騙して、自分はのうのうと部に残って。
それってやっぱ、計算でしょ?

「慎吾かいかぶりすぎだって。てか、本人の前では絶対言わないくせにさ」

この野郎、と、山ノ井先輩は親友の眉間を指でぐりぐりした。

…いや、親友なんかじゃないな。

「でも、タケなら解ってると思うけど、それってライバルが減ったからってだけなんだよね」

「え…」

「だから甘えてらんないの。慎吾も多分、だから俺には言わないんだね」

ほんと、いい奴だよ

と笑う糸目に、怒りが冷たく漏れだした。

よくもまあいつまでもいい人ぶってられるものだ。
俺は知っている。
あんたが今までどれだけ裏切ってきたか。

「そりゃ、自分のこと疑いもしない人ですしね。いい人っすよ」

俺はついに、この人を言葉の刃で切りつける事にした。

「は?何が?」

きょとん、と、自称可愛い顔で俺を見る。

「誤魔化さないでください」

笑みの薄くなった表情が滑稽で笑える。

「俺、知ってるんすよ。先輩も、準太のこといじめてたでしょ」

「何言って…」

「しかも島崎先輩を信用させて、自分はレギュラーになれるように部に残って。最低です。あんたなんかと野球したくない」

言ってやった。どうせ密告してやれば俺が優位なんだから、言えるときに言ってやれ。

「…」

「どうしました、言葉も出ませんか」

「いや、何、その…」

先輩は背を丸めて俯いた。

ぴくっ

え、泣いてる?

「泣いたところで…」

プッ…

「?先輩?」

クスクスクス…

え?笑って…

「だあっはははは、タケ最高!マジ面白過ぎ!下手な探偵ドラマみたいーっ!ハハハ…」

な゛っ!?

「な、どういう…」

「あ、もしかしてゴキブリホイホイの話聞いてたのぉ?かわいーねー!アハハ…」

「だからどういうことなんですか!?」

あまりの爆笑っぷりに、なんだか恥ずかしくなる。

「いいよ、教えたげる」

笑い過ぎで細い目尻に浮かんだ涙を拭いながら、山ノ井先輩はやっと語り出した。






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