ユリレイ現パロ

□それは痛い程の絶望
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初日から半月たって、ユーリがホストの仕事に慣れてきた頃には、レイヴンとも少しずつ仲良くなっていた。

「ノアイディ?」
「そ。ここの現オーナーの名前。随分と厳しい人でねー」
聞き覚えの無い名前に首を傾げれば、レイヴンは笑いながら話を続けた。
「最近、売り上げ合わないでしょ〜?いっつも怒られてさぁ…ホント勘弁して欲しいよ」
「まぁ、おっさんの普段の態度見てりゃ怒りたくもなるわな」
「酷っ!つーか店長って呼びなさいよ青年!」

レイヴンが店の愚痴をぼやいて、ユーリが相槌を打つ。それがクラブ終了後の恒例となっていた。
彼の話によると、仕事柄たくさんの知人友人がいるらしく、ならばと初日に聞けなかったオーナーの話を聞けば、彼は簡単に話してくれた。
ころころと変わる表情、楽しそうな声。
(…このおっさんは、男女問わず誰かを惹き付ける人間だな…)
自分とは違うタイプ。男の自分でも惹き付けてしまう何か。
(――…本人は気付いてんのかね…)

「んでぇ…あ、もうこんな時間だ」
時計の針は十二時前をさしている。
そう――…いつもの時間を。
「何だよ、もう少し飲もうぜ?」
「だーめ、もう店畳むんだから」

やはり、この時間になるとレイヴンは慌てて自分を店から出そうとする。
「なら、店畳んでからでも飲みに行こうぜ?」
「………無理。俺、明日早いし。ね?だから…」
珍しく粘るユーリに慌て、無理矢理背中を押そうとした時。

――…キキィ…

外から、車のブレーキ音がした。

「ん?今の音、店の前だよな」
「ッ――青年、こっち!!」
ぐい、と腕を引っ張られ連れてこられたのは休憩室。
「何だよ、おっさ…」
「大事なッ、お客さんだから!青年はここにいて!!絶対に出てきちゃ駄目だからね!?」
普段の姿からはまったく感じさせない気迫に、正直驚いた。
時計の針は十二時を過ぎていた。
「ッごめん!俺、戻るから…出てきていいよって言うまで、出ちゃ駄目だからね…?」

念を推し、部屋から出ていくレイヴンの姿は…どこか、怯えていた。



「…何だ、いつもなら店内にいたではないか」
「すみません…」
店内に戻ったレイヴンと対峙する男の周りには、護衛であろう黒いスーツを着た男が数名。
かなりの身分であろう男の威圧感で今にも倒れてしまいそうなくらいに、レイヴンの顔は青くなっていた。

「…それで、例のものだが…」
「ッ…すみません…今回は…ッ!!」
「――…ほう」
男の瞳が、無感情に見つめてくる。
一気に真っ白になる頭の中で、ふと黒い髪の男がチラついた。

(――…青年…ッ!!)





「…大事な、客ねぇ」
休憩室で暇を持て余しながら、ユーリは今までの調査の整理をしていた。
(オーナーのドンが死んだのが五年前。アレクセイがこの店で撮られたのも五年前。んで、今のオーナーはノアイディ…レイヴンのおっさんは五年前以前からここにいて…やっぱり、おっさんに直接聞くか…いや、だが…)
その時、胸ポケットに入れていた携帯が振動を鳴らした。
「…もしもし、ジュディか…シュヴァーンの事、何かわかったか?」
『それが全然。それで、思ったのだけど…あなたのお友達、確か刑事さんだったわよね?』
「あー…探偵としてはあんまり頼りたくねぇけどな…」
やはり、その結論に至るのか。
ユーリはうんざりように溜め息をついた。


―――――…ッ!!


「………?」
『どうしたのユーリ?』
「いや、今なんか…声が…」
そう言った途端、脳裏に先程のレイヴンの怯えたような顔が浮かんだ。
「ッすまねぇジュディ。また掛け直すわ」
ジュディスの返事も聞かず携帯を切ると、部屋から飛び出した。

(――…今のは、まさか悲鳴じゃねぇか!?)

ドクドクと心臓が脈打つ。
嫌な予感がする。
これが、彼が慌て怯える理由なのではないか?
店内へ続くドアに手をかけた時に、それは確信へと変わった。

「――ッ―――ぁ…!」

「!?」
微かに聞こえる、声。
何かを言い争っている声では、ない。

「ぁ、ぁ、嫌ァッ!お金、足りな…のは…絶った…払う、からッ…ぁ!!」
「…それをお前は何度言った」
「ひッ、ごめ、なさ…許し、て…ぁ、ぁあッ!!」
「――…くだらん、後はお前達の好きにしろ」

―――何だ、これは。

扉越しに聞こえる声に混じり、ぐちゅぐちゅと嫌な音が聞こえる。
嫌だ、と拒絶の言葉を紡ぎながらも艶のある矯声を響かせているのは…

「――…レイ、ヴン?」

何かを、理解した。
ひとつはストンと綺麗に心の中に落ち、もうひとつはどす黒く広がり自分を包みこんだ。

「ァ、ぁ…あぁッ…!!」

嫌がる言葉が消え、矯声だけが響くようになった扉を開けたユーリは、怒りで震えていた。

「何、やってんだ…!」

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