ユリレイ現パロ

□交差する。
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シャワーを浴びたいと言い出したおっさんを浴室に連れて行き、リビングで待っててと言われた通りにリビングにあるシンプルなソファに座り込んだ。

――…似合わないな。

テレビ、ソファ、ステンレス製の棚にと、必要最低限の家具しか置いていないリビングは、あまりにおっさんに似合わない空間だった。
(まるで、別人の部屋みてぇだ)
それに、気になったのは表札。
部屋の番号は書かれていたが、おっさんの名前は書かれていなかった。
(そういや俺、おっさんのファミリーネーム知らねぇや)
謎が多い男だと思う。
だけど、それでも惹き付けられる何かが、彼にはある。
「…まるで恋…なんてな」
だが、口に出しても、最初の頃のような嫌悪感はない。
むしろ…――。
「に、しても…遅ェなおっさん…まさか、風呂場で倒れてるんじゃ…」
腰が抜けて立てなかったくらいだし…もしかしたら、あんな事をされたのだから泣いているのかもしれない。
「…様子を見るだけ、見に行くか」
泣いてたら、そっとしておけばいい。そう思って、ソファから立ち上がった。




サァ――ッ
「ん…ふっ…」
その頃、浴槽ではシャワーの流れる音に紛れ、ぐちぐちと卑猥な音が響いていた。
「っ…うァ、はぁ」
浴室の壁に背を預け、自慰に耽るレイヴン。
先程の行為で熱を持った躰は、なかなか収まらなかったのだ。
(あぁ、もう…青年がいる、のにぃ…)

淫乱。

何度もあの人に言われた言葉。まったくもって自分自身の事だと鼻で笑う。
「ッ…は、…馬鹿、みたい…くッ!!」
果てた後に残った罪悪感と虚脱感。
(でも、青年はこんな俺を助けてくれた)
あの時の青年、かっこよかったなぁ。
一瞬であんなに人を倒すなんて…。

「…ザーフィアス警察学校…中退、か」

あの人が調べた青年の素性。
どうやら、かなりの実力の持ち主だったらしい。
そして今は――…。

「おい、おっさん無事か?」

シャワーの音に紛れて聞こえてきた声に、何故か安堵する。
「ん…大丈夫よ」
よろよろと立ち上がって、シャワーを止める。
「せーねんも入る?」
「いや、今日は帰るわ。明日…店、出れるか?」
すり硝子越しの会話。でも、声だけで安心出来る。
「大丈夫。立てるようになったし…あのくらいで店休むなんてしないわよ」

――…何だ、帰っちゃうのか。
ちょっとがっかりして、自分の心の変化に、思わず笑う。
「ふふ…」
「おっさん?」

せーねん。ありがと。

「青年、クビ。」
「――…は?」
「明日から、もう店来なくていいから」
硝子の向こうで動揺する気配がする。
「ちょ、待てよ!何で…」
「青年のお仕事はホストじゃなくて探偵さんでしょ?」

――…静寂。

「ッ…な…」
「青年が何調べて俺の店に来たのかとか、わかんないけどさ…今日の一件でわかったでしょ?」
青年、きっと殺されちゃうよ。
「゙助けたい゙って言ってくれてありがとう。嬉しかった…でも、ね」
「おっさ…」

ぱたっ

「俺、青年の事…好きになっちゃったから、尚更、あの人みたいには…なってほしくないの…ッ!!」

ぱたぱたっ
それは、髪から落ちた雫か、それとも――…

「ドンみたいに、なって欲しくないのよッ!!」
「ッ――レイヴン!!」

バンッとすり硝子の扉が開いて、びしょびしょに濡れた躰を抱き締められた。
「せーね、濡れちゃ…」
「構わねぇよ、レイヴン…ッ」
…あれ。
「…俺の、名前…」
なんだろう、すごく…
「嫌か?」
違う、と首を横に振る。
「すごく…嬉しい」

あぁ、青年って俺よりこんなにでかかったんだ。
そう思ってまじまじと見つめていたら、青年が少し驚いた顔をしている事に気付いた。
「…アンタ、髪下ろすと…意外と長いんだな」
「え、うん…後ろ姿とか、女の人に間違えられたりする事とかあるんだよね…」
そう言って笑えば、成程、と青年が呟いた。
「青年?」
「――…レイヴン」
優しい声で名前を呼ばれ、胸の傷を右手でなぞる。
「ッ…」
それだけ、なのに。
「無理強いはしない、だが…いつか、全部話してくれ」
青年の左手が、俺の頬に添えられ上を向かされる。
「せぇね…?」

「俺も、アンタの事が好きだ」

そう言って、キスをしてきた。
「ッ…ん…!」
何度も角度を変えて、深く、深く。
こんなに気持いいキス、知らない。

彼は待ってくれてる。俺が全て話すのを。
嗚呼、どうしよう。
俺は青年が好き。好きで好きで仕方ない。
だから、言えない。
言えない、よ…。





『私だ。あの探偵が、随分な真似をしてくれたそうではないか』
――…青年が帰った部屋の中、留守電の音声が響く。
『お前の責任だ。早めに事を運べ。あの探偵は…―――…お前が殺せ』

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