ユリレイ現パロ

□動き出した鼓動
1ページ/1ページ

ドクン。
(ここ、は…どこだ)

そこはあまりにも白い部屋。

ドクン。
(…私、は…)

聞き慣れない心音。
自分の心音はこんな音だったか。

ドクン。
(私は…あの時…)

マフィアの抗争。
響く銃声。
痛みに侵された躰。
自らの血に濡れた腕。

ドクン。
(あの時、死んだのではなかったか…?)

「お目覚めかね、―――――殿」

そして、゙私゙ば俺゙になった。



「ねぇ、青年はしないの?」
「何を」
「セックス」
お互いが想い合っている事に気付き、キスを交わした後。
「…今日はやめとく。アンタ強姦されてただろ、体が心配だ」
「…うん、わかった」
しゅん、という擬音が似合う顔をされ、少しときめいた。
――…あぁ、やっぱり俺はこいつが好きだ。
「でも、いつか…絶対ね?」
「あぁ、抱いてやるよ」
今更嫌だって言ったって、抱いてやる。

また口付けを交わし、ユーリはレイヴンの部屋から去っていった。







「…好き。大好きよ。」
留守電の音声を消し、静かになった部屋の中。
「だけど…」

――…殺せ。

つぅ、と涙が溢れた。
「゙愛せない゙よ…」
だって、彼は殺されてしまうのだもの。
他でもない、俺に。

(だって、そうだろう?)
「――…私は、そのような存在ではないか」

低い呟きは、いつもの彼とはかけ離れたものだった。





『アンタから電話かけてくるなんて珍しいじゃないか』
『あらそう?それよりどーなのよ、学校』
『別に…いつもと変わらねぇよ…あー、その、レイヴン』
『ん?』
『いつも仕送り、ありがとな』
『無駄使いしないでよ〜?』
『してねぇ!…なぁレイヴン…アンタも、あんま無理すんなよ?奨学金だってあるし、バイトだってやってるんだから…』
『あのじいさんから、お前をよろしくって言われてんの!ハリーは、俺が守ってやるんだから…ちゃんと最後まで守ってやるわよ』
『…レイヴン…ありがとな』



「…随分と趣味が悪いじゃない、青年」
事件があった次の日、見せたいものがあると店に呼ばれればにこやかな笑顔のレイヴンがいた。
そして完璧な笑顔のままユーリに見せたのは、いわゆる盗聴器。
「あ、あー…これは、その」
「休憩室のテレビの下から見付けたわよ。さすが探偵さん、まさか昨日の俺の部屋にも…」
「やってねぇよ!」
慌てて抗議すれば、安堵した表情のレイヴン。

「…おっさん?」
「よかったわ…さすがにプライベートにまで踏み込まれちゃ、折角好きになった青年を、大嫌いになっちゃう所だわ」

あの留守電も、聞かれてしまっていただろう。
(―――殺せ、か)

「すまねぇ、おっさん…だけど、その」
「ねぇ、青年。青年は何を調べてるの?」
(あの人が警戒している。なら…あの人に関係する事。)
もしも本当にあの人の事を探ってるのなら、俺は…

「…俺は、おっさんが好きだ」
「…青年…」
真剣な顔に、どきりとする。
「だから…だから、信じる」
信じちゃ…駄目なのに。
「俺が調べてるのは…」
聞いちゃいけないと、頭の中で誰かが言った。



「シュヴァーンってやつの事なんだ」



あの人の事じゃ、なかった?
でも…

「シュ、ヴァーン…」
「なぁ、おっさんは知ってるか?」
何も知らない、俺にとっては無垢とも取れるその瞳で、彼は俺を覗き込む。

「―――…知らないよ。そんな人…」
「そうか」

ドクドクと、慣れた鼓動が全身を走る。
シュヴァーン、なんて名前が…あの人の口以外から出る事にショックを受けた。
俺は、その名を知っている。
知っているからこそ、知らないと答えた。
(…何故)
「何でその人の事を探してるのさ?」
「ん、んー…こっから先は依頼主の素性も関係するから言えねぇ、ごめんな」

(何故、お前がその名を知っている)

それはもう、とうの昔に死んだ男の名ではないか。

「そっか、残念だわ」
「でも…レイヴンは関係ねぇみたいだし、よかったよ」
その笑顔が、俺の心を乱す。

もう、無理だ。
これ以上、ごまかせない。

静かに、けれど確かに、俺の中で何かが外れた。
それは死人の枷か、はたまた理性か。

「青年…ユーリ」
「ん?」

俺は、ちゃんと笑えてる?

「…大好きよ」

だから、殺せない。
俺はユーリが大好きだから。

愛してるから。



正式に解雇宣言をして、青年は店から去っていった。
もう二度と、この店に来る事はないだろう。

そして、俺も…―――。



その翌日のニュースを聞いていたユーリは耳を疑う事になる。
『現場はホストクラブ゙天を射る矢゙で、店長を含め数人の店員が売り上げ金二百万と共に失踪。現在、警察が捜査を進めています―――』

「…店長、て…レイヴン!?」

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ